エンディングだぞ、泣けよ
ここは異世界。
平穏の地、タイラタハ・ケマラ。
妖物の類こそ出没するものの、大きな天変地異も無く、さりとて、何か人々にスゴイ恩恵がある訳でもない・・・・
まぁ一言でいうと、悪かねぇ(良くもない)世界である。
”平穏の地”と呼ばれるのはごく自然な事と言えよう。
そんな平和だけが取り柄であった筈のこの地に、何時の頃からか凶悪な魔物が出没し、人々にエライ迷惑をかける様になっていた。
イージーモードがいきなりナイトメアモードになったが如く、それまでショボい妖物がいきなり過激にビルドアップされた超絶強化モンスターに配置変更され、今までペチペチやってた人々はフルボッコにされた。
この唐突な難易度変更に、世界中が大混乱。
残された人々に成す術は最早なく、出来る事と言えば精々神頼み。
今日も今日とて、彼らは自身の神に救いを求める祈りを捧げる・・・・。
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どったんばったん大騒ぎする下界を他所に、尚も平穏が続く場所があった。
ここは”|御隠の神域《みかくしのしんいき》”
真っ白で何もない空間が延々と続いている様にみえるこの場所は、タイラタハ・ケマラを統べる女神が住まう領域である。
その一角に彼女の生活スペースがあるのだが、そこは読みかけの雑誌、脱ぎ散らかした衣服、山積みの食器、食べかけのスナック等が散乱する、有体にいって汚部屋と言って差し支えない有様であった。
そんなハムスターの巣めいた部屋にある布団に突っ伏して眠っている者が居る。
女神、モジョリア・ナウダである。
その外見は、やや丸みを帯びた輪郭の顔に愛嬌のある大きな目と、どちらかと言えば可愛い系の見た目をして、腰まで伸びた癖のある黒髪をもふもふと広げている。
体格は小柄ながら、その胸は豊満で、ゆったりとしたローブを持ち上げその存在を主張している。
これだけ見れば美しいと言って良いのだが・・・・
よく見ると、その大きな目には濃い隈ができており、折角の髪はボサボサ、運動不足で胸以外もお肉が憑いててだらしねぇ!
・・・・と、折角の容姿も全て台無し。
まぁ一言で言って駄目なおなごである。
素材は悪くないのだが、いかんせん本神はそれを磨く気がないらしい。
そのやる気の無さはしっかり世界の運営にも反映されている。
それは、あらゆるパラメーターを最低近くに設定して変化が起こりづらくする事で、さながら放置系ゲームが如く一切の手をつけない、という有様である。
当然ながら、安定する代わりに次元昇華出来ないという本末転倒な欠点があるので、これをやる神はいない。
にも拘わらず、その方法を選択しているこの女神は、聡明な読者諸兄が既にお気づきの通り、「働きたくないでござる」がモットーの、お腐れヒキニートなのだ。
そんな残念な女神が、気持ちよく涎を垂らしながら惰眠を貪って更に残念さを倍増させていたのだが・・・・
突然アラート音が鳴り響き、ビクッ! となって飛び起きた。
「ファッ!? 何です、後ろの岩盤!?」ビクッ!
よく分からない寝言を口にしつつ、涎を拭いながら|godsh《ゴッシュ》を立ち上げ、騒音の元凶を探る。
(godshとは、世界の根幹システムであるunivaxを操作する為のターミナルである)
「( ,,`・ω・´)ンンン? エラー? あっ! 難易度がmaximumになっとる!?」
どうやら、寝落ちした時にスライダーを誤操作したようである。
慌てて元の最低値にまで戻すも、設定が反映され、世界から最高難度の影響が抜けきるまでには少々時間がかかる。
このまま放っておけば、地上の人々は魔物にすべて平らげられてしまうだろう。
「どれだけ放置しとったんだろう・・・・えっ、300年!? よく人残っとったな! でもこれじゃ治るまでにモンスターハウスになっちゃうよぉ・・・・せや!」ピコン!
何かを閃いた|女神《喪女》はブラウザを立ち上げ、”ミラップ!”というサイトにアクセスする。
・・・・神の世界にも、所謂攻略サイトの様なページが存在する。
この”ミラップ!”は、どちらかと言えばグレーな方法、特にマンチTIPSを中心に取り扱っている。
手段の是非はともかく即効性だけは高いので、この|女神《喪女》の様に利用する残念な神は後を絶たない。
「えーっと・・・・おっ? これ何かどうかな?」(*´Д`)
|女神《喪女》が見つけたのは一つのgum(通称ガム。univaxのプラグインの事)を用いる解決方法であった。
”Summon_Another_Girl”(SAG)。
名前の通り、異界から戦うおなご・アナザーガールを呼び寄せるものである。
この傍迷惑なプログラムを作ったのはとある虚空と深淵に住まう神で、その理由が
「年端も行かない少女らが懸命に戦い、力尽きるのが見てぇ!」ニチャァ・・・
という、下劣際まりないものであった。
当然その働きも最低の一言で、一度インストールすると、延々と別次元から少女らを、必要もないのに呼び寄せ続けるのである。
しかも、ご丁寧にそれなりに力を付与して召喚するものだから、その力を巡って時の権力者や、悪心を抱く者達に目をつけられて、その尖兵と化すおなごらも現れる。
そんな悪堕ちおなごらを抑える為に新たなるおなごらが呼ばれ、遂には善と悪のアナザーガールが永遠に争う事となり、世界はさながら世紀末もかくやという修羅の国と化すのである。
(これを作ったアホはあらゆる次元の女神達の怒りを買い、被害にあったおなごらの無念分痛めつけられた後、阿鼻地獄へと落とされ、現在絶賛服役中である)
こんな一歩間違えれば大惨事世界大戦確定なプログラムであるが、実はアンインストールすると割とアッサリ機能を停止する事が出来る。
また、このプログラムで呼んだ場合、なんと転移術を使った事にはならないというセキュリティホールがある。
(その代わりエネルギーを簒奪する事も出来ないが)
ミラップ!では、それ性質を利用して、”アナザーガールを一人だけ呼んだあとアンインストールする”という方法が記されていた。
確かにそれなら、転生転移の罪咎に問われる事なく、お手軽に戦力を手に入れる事が可能であろう・・・・
送還する事を全く考慮していない点を除けば、だが。
このヒキニートが、それに飛びつくのは無理もない。
「KO☆RE☆DA! この方法だったら、やる事したあと寝ててもいいもんねぇ! うへへ・・・・もう全部アナザーガールでいんじゃないかにゃ! ヘヒヒ!」
とんでもない事をさらっと口にしながらコマンドを入力する|女神《喪女》。
「sudo getapt Summon_Another_Girl・・・・っと」パチパチ
・・・・数分後。
無事ダウンロードが完了したようだ。
「sudo apt install Summon_Another_Girl・・・・では早速インストールだお!」パチパチ
・・・・更に数分後。
インストールも恙なく終え、SAGが起動する。
「・・・・メンドーだけんど、見てなきゃエラい事になっちゃうもんねえ。呼んだらすぐ消せるようにコマンディア打っとこ。こんなこともあろうかと! ってね、へへっw sudo apt uninstall Summon_Another_Girl・・・・」
楽をする為ならどんな苦労を厭わない|女神《喪女》がコマンドを入力しながらホロ・モニタに注目していると、早速SAGが悪行を働いたようだ。
最も強力な魔物が徘徊する場所に、一人のおなごが光と共に現れた。
この娘の名は|多栖陽《おおすひかり》。何処にでもいる、平凡な女学生だ。
どうやら下校途中にてSAGに|召喚《拉致》された模様。
だが、プログラムの働きによるものか、陽は特に取り乱す様子もなく、静かに佇んで魔物と向かい合っている。
「(; ・`д・´)ムムム! この娘がそうかにゃ? 一応指差し確認しなきゃヨシ! って出来ないね! |解析眼《アナリティクスアイズ》、|起動《アクティベート》!」キュピィン!
この|女神《喪女》、実は学問の神でもあり、あらゆるものを解析する術が得意だったりする。
・・・・の割には、その力を全く活かせていない、本当に残念な|女神《喪女》なのであるが、今回ばかりはその能力が役に立ったようだ。
|女神《喪女》の視界が陽を捕らえ、彼女から発する力を数値化すると、たちまち凄まじいスピードで加算されていった。
初めての体験に興奮を抑えきれない。
「うは! すっげぇ! とんでもない傑物値だお! ・・・・えっ!? まだ上がんのぉ? ちょ、これ以上は・・・・グヘェ!?」パァンw
だが、調子に乗っていられるのも最初だけだった。
やり慣れない事をしたせいで、測定の閾値を超えてオーバーロードした眼球が爆ぜ、致命的な致命傷を受けたのだ。
「あっぎゃあ~~~~!? いった~い! |回復《レスト》! |大回復《レストラ》! |超回復《レストラハン》! |完全超回復《マハレストラハン》!」ゴロゴロ
痛みにのたうち回る|女神《喪女》。
思いつく限りの回復術を使って何とか立ち直る事が出来た。
「あがが・・・・このおなご、とんでもない傑物値だお! ならもうSAGは要らんね! ポイ!(アンインストールっぽい!)フウ、これでヨシ! ・・・・と。さて、んじゃあ見せて貰おうかにゃ、アナザーガールの性能とやらを! フヒヒ!」
流石にこの|女神《喪女》ですら、SAGにはあまりいい感情を持てなかったようだ。
迷わずきっちり消去して、これ以上の悪影響を防ぐ。
紆余曲折あったが、無事に召喚を済ませ、安心した|女神《喪女》がホロ・モニタに注目する。
すると、魔物と向かい合っていた陽が、徐に肩から下げていたカバンに手を突っ込んで拳銃のような武器を取り出すや、目の前の敵を見事打ち抜いた!
「おおっ!? すっげー! 一撃だお! でも気を付けて! そのやっこは倒しても頭だけ飛ばしてまた襲い掛かってくるお!」(゚Д゚;)
妙に感情移入しながら観戦する|女神《喪女》の言う通り、陽が今倒した敵、ジョングというゴーレムは一度倒されても頭部を切り離して襲い掛かってくる、一匹で二度ウザいモンスターである。
そのクセ、倒しても一匹分の経験値しかもらえないクソマズモンスとして、冒険者達から嫌われているやっこである。
今もまた、頭だけで陽を追いかけまわしている。
「うっへぇ~! アナザーガール、がんばえー!」(>Д<)
すっかり戦う光の天女らを応援する幼女の気分となる|女神《喪女》を他所に、陽は次々とジョングを打ち抜き、辺りは頭部だけが乱舞するかなりホラーな状況と化す。
どうやら陽は、わざと頭だけを残しているようである。
「アレ? なんかおかしくね( ^ω^)?」と思う|女神《喪女》の疑問に答えるかの様に、辺りを飛び交う頭部を一気に打ち抜いて殲滅する陽!
そしてその後に残ったドロップアイテムを陽が拾った後、妙な動きをカクカクとし始めた・・・・次の瞬間。
何故か陽が、見知らぬ複数の男女と共に断崖に立ち、魔王の城が崩壊する様を万感の思いで眺めている場面に切り替わった。
( ゚д゚) ・・・・?
(つд⊂)ゴシゴシ
(;゚д゚) ・・・・??
(つд⊂)ゴシゴシゴシ
(;゚Д゚)・・・・!?
思わず二度見、三度見する|女神《喪女》。
「NKT!? あれ、ナンデ? もう悪滅びちゃったの?」(゚Д゚;)
「ん~、そうだよぉ。悪いやっこはボクが全部やっつけちゃったもんねぇ」(‘ω’)
「だ、誰です!?」
「ボクだよぉ?」( ^ω^)?キョトン
「お前だったのか・・・・って違うよ! どうやって敵をやっつけたの? それに何でここにアナザーガールが!?」
何故か御隠の神域に居る陽。
先程まで下界に居た筈であった彼女が、どうしてこの場にいるのであろうか?
「ん~? それはねぇ・・・・」(‘ω’)
そういって不敵な笑みを浮かべた陽の身が淡い光に包まれると、イクサ装束を纏った凛々しい女神へと転じた!
「悪い事したやっこを、成敗する為だよぉ~?」(‘ω’)ニッコリ♪
女学生・多栖陽は仮の姿である。
彼女は秘神タスナリス。
転移、転生術以外の方法で人々を拉致する輩を専門に取り締まる女神なのだ。
これには|女神《喪女》も仰天した。
「はっひょおお!? もしかして貴女は三千世界の神さんですかぁ!?」
「いえす、あいあむ! だよぉ~?」(‘ω’)キョトン
「そんなスゴイ神さんが力を振るったら、拙者のショボい世界なんて粉々になるはず! どうやって下界を救ったんです!?」
「ニュフフ。それはねぇ、任意コードを実行したからだよぉ?」(‘ω’)
任意コードとは、特定のタイミング、状況、行動などが一致した場合のみに発生するアドレスをunivaxのメモリに送り込む事でシステムを誤認させる方法である。
タスナリスは、ジョングの数とドロップを調整、アイテムを拾うタイミングを見計らって、エンディングを呼び出すアドレスを作り出し、それに対応する動作を介してunivaxに入力する事によって魔物を一掃したのである。
これは、今回の騒動があくまでシステム上起こった事だからこそ可能であった。
外部からの攻撃であった場合は、この方法は使えない。
「あ、あがが・・・・。そ、そんな方法があったなんて!? うう、拙者は一体どうなっちゃうんです!?」
「ん-・・・・消滅、かなぁ?」(‘ω’)ニッコリ♪
笑顔でさらっと処刑宣告するタスナリス。
マジブルッちまった|女神《喪女》は最後の賭けにでる!
「むう~! こうなったら一か八か! 今まで貯めてた力を全開放すれば、倒せないまでも追い払うくらいは出来る筈! 唸れ拙者のパワー!」ズモモモ
「無駄だよぉ~? ほりゃ!」(。・ω・)σ ⌒*ポーイ
放置してたとはいえ、普通に運営されている世界からは結構なエネルギーが蓄えられている。
それをもってすれば、一矢報いる位は出来るかもしれない。
だが、そんな悪あがきを嘲笑う様に、タスナリスが足元に落ちていた漫画肉の骨を拾って|女神《喪女》に向かって軽ーく投擲する。
「うはは! そんな骨っこで拙者を止められるものかってず!」ボゴォ!
タスナリスの投げた骨は何故か超巨大になって|女神《喪女》を押しつぶし、折角貯めたパワーも雲散霧消してしまった。
「あがが・・・・ ナンデェ?」(´;ω;`)ウゥゥ
「ニュフフ。これぞホネイ・サン=ジツ! ボクの攻撃はぜーんぶヒサツ・ワザになるんだよぉ!」(‘ω’)エッヘン
見た目こそ幼女だが、彼女は三千世界きっての武神。その攻撃全てが必殺の一撃なのである。
元々ガッツ等皆無の|女神《喪女》、早々に諦めて白旗を上げた。
この素早い戦力分析だけは高く評価してもいいだろう。
「あ、あうう・・・・降参しますぅ。だから消滅だけはご勘弁を!」
「んー? そうだねぇ、消しちゃったら後始末がメンドイもんねぇ。じゃあ、こうしよっか。そりゃ!」ボゥン!
|女神《喪女》のみっともない命乞いを聞き入れたタスナリスは、ルーレットを取り出した。
「キミはいちおー初犯みたいだし、世界もまぁちゃんと(?)運営してたからチャンスをあげよう! このルーレットにダーツを投げて、刺さったトコで決めるお!」
ルーレットは八等分されており、「消滅」と「ボコる」が半々であった。
「うええ!? 拙者投擲は苦手でござる!? しかも半分消滅で残りボコだし!? ・・・・ちなみに、ハズしたらどうなるんですか?」
そういってタスナリスの方を見やると、彼女の右手に凄まじい力がチャージされ唸りを上げていた。
「ハズしたり断ったりしても消滅だよ? いいね?」(‘ω’)
「アッハイ」
最早進退窮まった|女神《喪女》は、裂帛の気合でもってダーツを投擲した!
「こうなったらもうヤケじゃあ! えーい!」ピョレッ♪
凄まじい気合とは裏腹に、大きく山なりに飛んだダーツは、見事に的のど真ん中をスコンwと打ち抜いた!
「うわあ! スゴいスゴい、大当たりだお!」
「おおっ!? って大当たりとは?」(;´・ω・)
ルーレットの真ん中には小さく赤い〇があるのみで、何も書いていない。
「ニュフフ。ど真ん中は「神の穴」におわす太陽神マッカオ・シューゾルのブートキャンプに参加できる権利だよ! やったね!」
太陽神マッカオ・シューゾルとは、燃え盛る恒星もアイスと同じ位ひゃっこく感じる程の暑苦しさを誇る事で有名な神である。
そんな彼は、持ち前の勢いと面倒見の良さをもって堕落した神々を指導、更生する施設を運営している。
それが「神の穴」である。
「ひい! まさかあの赤色巨星神の元へ送られるんですかぁ!? ヤダヤダ! 絶対無理ですって! ムリムリムリぃ~! ひーん!」メソメソ
「ニュフフ。遠慮しなくてもいいお。っていうかぁ、もう呼んでるし!」(‘ω’)
「おお! 君が新しい生徒か! だーいじょうぶだって、出来る出来る! さっ、私と一緒にトレーニングしようじゃないか! イクゾー♪」ガシッ
「あひい!? やだぁ~・・・・」ヒュンッ♪
「いってらっしゃーい! ニュフフ!」
・・・・かくして、アナザーガールの活躍により一つの世界が、魔が差した|女神《喪女》がもたらした災厄から救われた。
だが、非合法な手段で手を抜こうとする輩は後を絶たない。
そんな連中が居る限り、アナザーガールの戦いは続く。
がんばれ、陽! まけるな、アナザーガール!
ちなみに余談だが、太陽神マッカオ・シューゾルの薫陶を受けたナウダは、すっかり健康的になり、小麦色の肌をした快活女神へと生まれ変わった!
そんな彼女は、地上の人々から”熱情の女神”と呼ばれながら精力的に暑苦しく頑張り、見事次元昇華を果たしたのであった!
おわりw
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