ベボゥ!
余りにも長かったので前後編に分かれてます。
では、ショータイ!
謎の真っ白い空間にて、背中に羽を生やし、頭に光る輪っかを乗っけた風体の、天使めいたおなごが、悪魔の様に邪悪な笑みをニチャァ・・・と浮かべている。
この者の名はメガスキエル。
次元を超えた世界を見渡せる遠見の術が得意な、そこそこ高位の天使である。
「ピシャシャ・・・・! みぃつけた! コヤツで最後でしゅね!」
彼女の眼前にはホロ・モニタ調の映像が映し出されており、そこには、くたびれたスーツを身に着け、その服に勝るとも劣らぬ程にうらぶれた容貌の青年が居た。
この天使を僭称する悪魔は彼の所在を追い求めておった様である。
この青年の名は|志波猛風《しばたけかぜ》。
とあるブラック企業に勤める|社畜《奴隷》である。
どうやら彼は、自室のあるボロアパートへと帰宅してるようだ。
時刻は23:45。
終電より僅かに早い。
最もこの者にとっては、普段よりも早く上がれたと感じているに違いない。
その証拠に、歩く速さが通常の1.25倍である。
その手にコンビニの袋を下げている。
これは恐らく晩飯であろう。
カナシイ! セツナイ!
侘しさと、いじましさと、報われなさをコンクリート・ミキサーにかけてぶちまけた様な、有体にいってヒドイ有様である。
さりとて、この天使の様な悪魔が、この憐れなる青年を救わんとしているようには到底見えない。
一体、何を企んでいるのであろうか・・・・。
そんな、誰がどう見ても楽しく見えない光景を、さも嬉しそうにニヤニヤしながら眺めるメガスキエルの背後に、何者かが近づいてきた。
「何をしているのです?」
「ピシャ!?」
その者は、獲物を前にして涎を垂らす猛獣が如き表情をした|天使《悪魔》の背後からその所業を問う。
それは女であった。
(へへ、悪かねぇぜ・・・・(良くも無い))
美しい金髪のロングヘアをして、まるでギリシア彫刻の様に完璧な容姿である。
純白の薄衣で出来たドレスを身にまとい、背後からは後光が差して見える。
・・・・だが、その表情は、この|天使《悪魔》メガスキエルと比べても劣らぬ程に、いや、それを更に上回る程の邪悪さであった。
この者こそは、コラウン聖界という、我々からみれば異世界を統べる女神。
聖女神ヴィクティーナ・ワクロビアである。
この恐るべき|女神《邪神》は、まさにその悪辣なる表情に相応しい、恐ろしい言葉を言い放った!
「さっさとやれと言っているのです。早くこのゴミを此方へ転移させるのです」
すわ、転移!? この|女神《邪神》は転移といったのか!?
異世界転移! ああ、異世界転移!
市井にて懸命に生きる、か弱き健気な人々を、虫けらの様に地獄へ送り込んで顧みない、正に悪魔の所業!
何故絶対正義である筈の、いと尊き、慈愛の存在である女神の口からそのような残酷な言葉が飛び出てくるのであろうか!
だが、|天使《悪魔》メガスキエルは、自らの主を諫める処か、その邪悪な笑みを更に歪ませながら軽口を叩く。
「ピャッハー!! もうちょっと勿体ぶらせてくだしゃいよ、ワクロビア様! コイツで最後なんでしょ!?」
「|英傑反応《ヒロイック・リアクション》はそいつで最後よ・・・・。お前が覗き見出来る範囲内では・・・・ね」
|英傑反応《ヒロイック・リアクション》とは、非常に強い魂の力を秘めた人間、即ち、|英傑物《ヒロイック・パーソン》が放つエネルギーの事である。
この愚か者共が覗き見ていたのは、我らが三千世界にある地球の島国。
それは、今この場にいるサンシタ・|女神《ビッチ》等には到底及びもつかぬ程に高尚な、眩い神気に満ち溢れた世界である。
その濃密なパワーは邪なる者共にとっては強力なフィルターとなり、観測を専門とする|天使《悪魔》をもってしてもごく狭い範囲を朧げながらにしか覗き見る事しか出来ぬのである。
そんな幽玄かつ神聖な力に包まれた島国に住まう人々は、八百万もおわす神々の手によって統治され、他の地域に比べても頭抜けたエネルギーを秘めているのである。
だが、この神々は、人々が持つエネルギーを、魔法とかスキルといった形で浪費させるのをヨシ!とせずに、あくまで生のままの状態を重んじ、決して自らの欲望に任せて奪おうとせず、懸命に生きる人々が持つ命の煌めきを慈しんだ。
そして人々の死後にて、特に功徳を積んだ者を選んでそのエネルギーを神気へと昇華させ、新たなる神として迎えいれる方針をとっていた。
故に、この島国の人々はただの一般人レベルであっても非常に強いエネルギーをその身に内包している。
当然、英傑物と認定される者ともなると、その身から全く消費されず、溜まりに溜まって漏れ出るエネルギーは、まさに天地開闢にも匹敵する程強大である。
そしてそれは、この血に飢え、幾ら喰らっても決して満ちる事のない餓鬼めいた|女神《ビッチ》らにとっては、まさに上等の獲物なのであった。
それこそ、こうして己が欲望を隠す事を全くしなくなる程に。
「しかし、こうも反応が少ないとフラストレーションが溜まっていけましぇんよ!」
「フ・・・・我らだけでなく、他の神共も狙っていますからね。目立った反応の者はあらかた”狩られて”しまったのでしょう」
実際、この者達が観測を始めた時点では十数個あった反応が、ほんのワン・ミニッツの間に、猛風を除いて全て消滅したのであった。
それは、憐れなる子羊たちを狙う狩人が、他にも存在するという事を意味する。
「ピシャシャ! あの便器にこびり付いたカスみてーなやっこ共はワビサビが分からないサンシタでしゅからね! それにしても・・・・ピシャシャ! 転移の瀬戸際でしゅよぉ! 早くコイツの喚く顔が見たいでしゅねぇ!」
「此処へ来ればすぐにでも見る事が出来ましょう・・・・。勿論、喜びの余り、ドゲザしながら這い蹲って、このわたくしを崇める様をね。地獄から救い出してやったのですから、当然の事でしょう・・・・まぁ最も、逃れた先はまた・・・・あはは! 煉獄ですけどね!」
忌むべき邪悪の化身共が、これから体験するであろう加虐の愉悦を思い描き、醜悪な笑みを浮かべる。
「ピーシャッシャッシャ! 流石はワクロビア様、その御心は欲望で開き切ってガバガバでしゅよお! 尚且つ、邪心で真っ黒に染まり切って、|慈悲《締まり》なんてありゃせんでしゅねぇ!」
「チッ、うるせーなwwww アンタわたくしの事何だと思ってるのよ! ・・・・ところで、このカスの|英傑反応《ヒロイック・リアクション》って一体どの位の傑物値なのです? 急かしといて何なんですが、1000hrp以下の鼻クソレベルだったら転移だけで赤字になってしまいますよ? ちゃんとそれなりの強さでしょうね?」
「(黒くてガバってるのは否定せんのでしゅねw)そーいえばみぃつけた! したばっかだったんで、まだ測って無かったでしゅよ。 どれどれ・・・・?」スチャ
|女神《ビッチ》に促され、|メガスキエル《メスガキ》は「|傑物判定機《ヒロイック・オブザーバー》」という、モノクル状の装置を取り出して装着し、測定を開始した。
「|傑物判定機《ヒロイック・オブザーバー》」から、異界の蛮族達が相手の強さを図るときに使う装置みたいなpipipipipi….と言う音が鳴りだした。
猛風を照準にとらえた装置は、その表示する数値をどんどん増して行く。
・・・・英傑物の強さは傑物値(hrp)という数値で可視化する事が出来る。
その数値は単純に「魂の質」を表わし、肉体の強さは関係ないが、鍛え込む過程で精神も練磨される様である。
この数値に具体的なランク付けをするならば以下の通りになる。
(但し、これはこの島国に住まう人々限定のランクで、他の地域を参照するならば、神仙以下のランクの数値を5分の1に減じて見るのが妥当である)
0~100 悪党や犯罪者、又は高齢者。幾ら強くても年寄りや悪人は低くなる。
101~250 ごく普通の一般人。それでもコラウン界の最強生物・真龍より高い。
251~1000 スポーツ選手等のアスリート。メンタルが強い程高くなる。
1001~10000 格闘家や軍人、又は技術者。戦士や賢者は当然高い数値を示す。
10001~65535 神獣や聖者といった、神仙の類。この時点で|女神《ビッチ》より高い。
65536~ 他世界の神。これ以上はこの世界には収まりきらず、測定不能となる。
この|女神《ビッチ》、ヴィクティーナ・ワクロビアの傑物値は6972hrpで、コラウン聖界全体には11451hrp程スタックされている。
この数値は、自然に増減する分を考慮しても約百億年分程しか世界を維持できない位に逼迫した状態であることを示している。
加えて、ここより遥か高次元である三千世界からの転移には1919hrp必要で、最低でも3000hrp以上の力を持つ者でないとエネルギーの回収が出来ず、大損となる。
(|女神《ビッチ》が赤字といったのはこの事である。ちなみに、世界を創造した神の約10倍のhrpがあれば、一切手を付けない場合に限って、放置していても宇宙の熱的死まで持つといわれている)
このまま何もしなければ世界は滅ぶ。それ即ち|女神《ビッチ》の消滅である。
必死になって外部からエネルギーを求める理由もお分かりいただけるであろう。
自らの存在を維持する為にも、また、今後も同様の手口でエネルギーを獲得し続ける為にも、何としてでもより強い力を持つ|英傑物《犠牲者》を|招聘《拉致》せねばならないのである。
「お、おお~! しゅごいでしゅ! ドゥンドゥン上がってくでしゅよ! 2000‥‥2500‥‥3000‥‥。 おおっ! 5000越えでしゅ! ‥‥えっ!? まだ上がりよるんでしゅか? ‥‥ウォッホウ! 7000キター! このやっこ、アンタしゃんよか強いでしゅよ!? ‥‥ピシャア! 10000越えよった!? しゅごい!」
「えっ!? ちょ、まじで!? うはwwwwおkwwww アレよね、残り物はフクスケってガチじゃんよ! とうとうわたくしの時代が来ましたよ!」バシバシ
興奮のあまり、|メガスキエル《メスガキ》のケツをバシバシ叩く|女神《ビッチ》。そしてそのままケツを握りしめながら自らの身体を寄せ、強引に装置を覗き込もうとする。
|メガスキエル《メスガキ》も又、このかつてない大当たりSUDPE(スーパーウルトラデラックスプレミアムエクセレント)レアな獲物が、これでもかと主張する質の高さを前に我を忘れ、さらっとセクハラされている事にも気づかない。
だがアホ共の狂喜乱舞っぷりをよそに、数値は尚も上がり続ける。
「ピシャシャ!? まだ上がりよるんでしゅか!? もう30000越えよるんでしゅよ!? は、ハッヒィ!? 数字のスピードが増しなすった!? ちょ、50000!? こ、これ以上は‥‥。あげ!? ピッシャア!! ><」キャンズ!!
ぐんぐん増した数値はとうとう装置の閾値を超え、測定不能となった。
表示される数値は65535でストップ。
だが、尚も測定が継続されているせいで装置に過負荷がかかり、遂にはオーバーロードを起こし爆発四散した。
爆風を受け、真っ黒コゲのアフロになる|女神《ビッチ》と|天使《メスガキ》。
「アギャッ!? あっ! あつ、あっつい! ちょ、アンタいきなり何勝手に爆ぜてんのよ!? 吃驚するじゃないのさ!?」プンスコ
「ピヘッ、ピッヘェ! アチチ! 勝手にってヒドいでしゅね!? メガちゃんだって好きで爆ぜた訳じゃごじゃーましぇんよ!?」
「チッ、うるせーな! 口答えすんなし! ・・・・ああ~、完全にぬっ壊れちゃった。これ高かったのにぃ! アンタ、責任取って解析眼で測定しなさいよ!?」
「ピシャシャ!? んなことしたらメガちゃんのつぶらな瞳が吹っ飛んじまうでしゅよ! パァンwって! アンタしゃんはそんなグロいの見たいんでしゅか!?」
|天使《メスガキ》の能力と装置の性能は大体同じ。頭のメモリ容量も精々2バイト、8bitゲーム機とどっこいである。
「あぁん!? はー、つっかえ。じゃあ良いわよ、やんなくて。後で掃除すんのも邪魔くせーし。なら大体で良いから教えなさいよ。直に見なくてもある程度は分かるんでしょう? ほらあくしなさい」
「なんしゅか、その態度ぉ! 幾らアンタでもカッチーン! ってするんでしゅけど!? まぁ良いでしゅ、見てみましゅ・・・・ンー、そうでしゅねぇ、このデカさだと、少なく見積もっても20万はあるんじゃないでしゅかねぇ?」
「ハァ!? 何よそれ! わたくしの28.6861733倍あるじゃないの! 世界を二個同時に開いて|熱的死《蒸発》まで放っといてもまだお釣りがくるわ!」
乳海を形成した後に撹拌し、集まった元素を活性させて宇宙開闢させるのに必要なパワーの総量は5000hrp。
天地を開くだけなら、40回は可能ッ!
「wwwwなんで頭やら何やらガバガバのクセにそったら計算だけ細かくてギッチギチに締まりよるんでしゅかwwww ・・・・少なくとも、でしゅからね。もっとデケー可能性大でしゅ。・・・・アレ? そうしゅると、此処でほたえられたらヤベーんじゃないでしゅかねぇ?」( ^ω^)?キョトン
何やら流れが変わって来た事から、ふと不安がよぎった|天使《メスガキ》がそうボソッと漏らす。
そのツイートに、特上の獲物を前にした興奮の余り、自らの手に負える相手かどうかを完全に失念していた|女神《ビッチ》が、はたと我に返った。
この|女神《ビッチ》も|天使《メスガキ》同様に、頭のメモリ容量は精々2バイト。ましてや、複数のスレッドを同時に処理する等といった高度な機能はない。
・・・・いや、カードリッジ読み取り端子が使い過ぎでズルズルになっている分、使い減りしていない|天使《メスガキ》に軍配があがるだろう。
「うは! 確かにアンタの言う通りね。こんな御立派様に暴れまくりされちゃったら「ひぎぃ!|わたくし《コラウン聖界》壊れちゃう!」ってなっちゃうじゃんよ! ・・・・他のトコ調べて違うヤツにしようかしら?」(。-`ω-)ムムム
頭が冷えてきたお陰で急に怖気づいてしまう|女神《ビッチ》。
読み取り口ユルユルの割には賢明な判断といえよう。
一つの世界が保有出来るhrpのキャパシティは、世界の強度によって異なるのだが、大体、開闢した|本神《ほんにん》のパワーの15~20倍程である。
それ以上を超過すると、次元と空間を維持出来なくなって即崩壊してしまうのだ。
(段ボールの中で風船をホースに繋いで延々と膨らませるのを想像するとよい)
だがしかし、何を思ったのか、ここに来て|天使《メスガキ》が、ニチャァ・・・・と醜悪な笑みを浮かべながら、ビビり散らかす|女神《ビッチ》を急に煽りだした。
(労災認定されて然るべき状況で望外になじられた事に対する意趣返しだろうか?)
「ピシャシャw 何ビビッてんでしゅかあ? このやっこを|転移《とば》すのが目的だったんでしゅよねぇ?wwww」
「んなっ!? こ、コイツ・・・・! ビ、ビビってねぇし!? ・・・・何よそのツラ! 何時にも増してムカつくわねえ!」プンスコ
「アイツに転移魔方陣を突きつけ、コラウン聖界へ引きずりこむのがアンタの望みなんでしょ! こいよワクロビア! 服なんか脱ぎ捨ててかかってきなしゃい!」
「やろう、ぬっ|転移《とば》してやるあぁあああああ!! とでも言うと思ったのかしら!? フン、そこまでおバカさんじゃないんだから! もう唾つけてあるんだから、じっくり考えるんだもん!」
「wwwwワクロビアー!・・・・ヒダリデトバセヤwwww」
「何よ何よ、メスガキロリビッチがアンタ! 二回目の挑発!? 乗らないからね、|コラウン聖界《わたくし》が崩壊するかどうかなんだから!」
「・・・・・・・・wwww(ニヤニヤニチャァ・・・・)」
「・・・・やってやろうじゃないのよ! 見とけオラァッ!!」(# ゚Д゚)ウガー!
「プシュフーwwww それでこそワクロビア様でしゅ! そう仰ると思って、もう|転移門《ブービートラップ》は仕掛けといたでしゅよ!」
しょうもないやり取りによる紆余曲折があったが、結局、この|女神《ビッチ》は己が欲望には勝てずに即オチしたようである。
「計画通り」と、ウザさキレッキレのドヤ顔を披露しつつ、ホロ・モニタに表示される一角を指さす|天使《メスガキ》。
「此処でしゅよ! このやっこの、ハムスターの巣みてーなボロい部屋の入口に設置しておいたでしゅ! コイツが扉を開いた瞬間、アンタしゃんと即|合体《吸収》でしゅ!」
「ちょ、言い方ァ! 確かに|コラウン聖界《わたくし》に招き入れて力を頂戴する訳ですから、間違ってはいませんが! しかし、ほう! アンタにしては気が利くじゃないのさ! 【よくやった!】」
転移門は落とし穴の様に触れた相手を転移させる術である。
お手軽な術なのだが、効果を発するのは一度きりな上、設置した後から場所を変更する事が出来ないので、対象以外がひっかかってしまうという欠点がある。
ただし、転移魔法よりも若干ではあるが消費hrpが少なくて済むというメリットもある。
(転移魔法:1919 転移門:1515)
主に、大型機械車両等のフロント部分に設置して対象を轢殺するようにしむけるのが一般的かつ、効果的な使い方であるとされている。
今回の場合は、触れる者が対象である猛風に限定出来る状況であるので、転移門の使用は最適解。|天使《メスガキ》の癖に生意気で、良い判断である。
「ピシャシャ・・・・! あざっす! メガちゃんだっておこぼれが欲しいんでしゅよ。臨時ボーナス弾んでくだしゃいよ! ・・・・おっ、やっこがアパートにお帰りなすったでしゅ。そろそろこっちへ来よるでしゅよ! 所でアンタしゃん、そんなアフロヘア―で大丈夫でしゅか?wwww」
「えっ!? もう!? ちょっと心の準備さして欲しいんだけど! っていうかアフロなんはアンタもでしょうが! |回復《レスト》! |浄化《ピュリファ》!」
|女神《ビッチ》が術を唱えると、もっさりしていたアホ二匹の頭が一瞬で元のサラサラヘアーに戻った。これは横着者が良く使う魔法である。
「フヒヒwwwwトンクスwwww ところで、ウチらの寝床、剥き出しなんでしゅけど、アレも放っといていいんでしゅか?」
そう言って|天使《メスガキ》が今居る場所の一角を指さす。
この白い空間は果てしなく広がっているように見えて、実は十畳程の部屋である。
そしてすぐ隣にこのアホ共の生活空間がある。
そこには食べかけのお菓子や、脱ぎ散らかした下着、開いたままの雑誌などが散乱し、どう見ても汚部屋といって差し支えない有様であった。
「うは! やっべ! ちょ、もう片付けてる暇ないわ! あっ、そうだ! アレよアレ、白い書き割りあったじゃん! アレ持って来て! ホラ、隠せ隠せ! もう、あくしなさいよ!」アタフタ
「ピシャシャwwww テンパり杉内乙wwww |天使《ひと》使い新井さんまたやってしまったねぇ、な|神《ひと》でしゅねー!」
|天使《メスガキ》が何処からともなく取り出した書き割りによって、この空間は(見た目だけ)完全に真っ白の世界となり、後にはボロい扉を残すのみ。
そしてこの二匹が慌てて転移門の出口側へ陣取り、「スンッ」と取り澄ますのと、アホ共の目前にある扉が開くのはほぼ同時の事であった。
・
・
・
アホ共がその姿を見て、勝手に一喜一憂していた事など露知らず、くたびれた青年・猛風はボロアパートへようやっと辿り着いた。
普段なら、このまま適当にコンビニ弁当でもモソモソ喰らってから寝るだけであるが、今日は週末。
珍しく休日出勤の予定もない。
しかも驚くべき事に、残業が4時間もの短期間で片付いたので、こうして意気揚々と帰宅したのであった。
明日は休みだ。
心置きなく夜更かしが出来る。
すこし贅沢に焼き鳥と、悪魔的に冷えたビールで一杯やりながら、大好きなTAS動画を見て過ごそう。
そう思いながら、古くなって建付けが歪んだせいで、開けるのにコツがいる扉のロックに鍵を突っ込む。
ガッコン、ガチャガチャ・・・グググ・・・・ガチャ!
初めの内は手こずったこの鍵の扱いもすっかり手馴れたもので、アッサリとロックが外れる。
ヨシ!
これでめくるめく乱数調整の世界へと出発じゃあ! (´Д`)
等と意気込み、鼻息荒く飛び込んだ先は、見慣れた万年床のある部屋ではなく、何もない、真っ白な空間であった。
『うん? はっ? えぇっ!? こ、ここは一体? 私は自室に帰ってきた筈では? ウチのアパート、こんなに美しかったですかねぇ? うーん、間違えたかな? あ、あれっ!? ドアがない!』Σ(・□・;)
時既に時間切れである。
猛風を|コラウン聖界《ゴミ溜め》へと転移させた門は、その役割を終え消滅した。
後には何もない空間が広がるのみである。
猛風が必死になってドアを探していると、背後から女性の声が聞こえてきた。
「我がコラウン聖界へようこそ。お待ちしておりましたわ、勇者様!」
その声に猛風が思わず振り返ると、眼前には金髪の、へへ、悪かねぇぜ(良くもない)といった感じの女性が穏やかな笑みを浮かべて佇んでいた。
その傍らには、女性と同じくにこやかな表情の天使めいたおなごが控えていた。
「(ピシャシャwwww なんでしゅかその声wwww きっしょwwww)」
「(チッ、うるせーなwwww 初対面の時位いいじゃないのさ!)」
どうやらその笑みは相手を嘲笑するものであったようである。
そんな事どうせ分かりゃせぬわよ、ヨシ! とばかりに、勢いに任せて一気呵成に転移が確定したようなアトモスフィアを作って誤魔化そうとする|女神《ビッチ》。
「貴方様は選ばれた英雄なのです。この世界は危機に瀕しております。どうか、どうか貴方様のお力でもって、我らを御救い下さい・・・・。あっと、申し遅れました。わたくしはこの世界を統べる女神、ヴィクティーナ・ワクロビアと・・・・ん?」
何処かで聞いた様な設定をつらつらと畳みかける|女神《ビッチ》。
瞳を潤ませ、上目遣いで助けを懇願する様は実にいじらしく、堂に入っている。
恒常的に媚を売り慣れているのであろう。
しかしそんな名演技を他所に、それを聞いている猛風の様子がどうもオカシイ。
此処へ転移した時よりも更に動揺し、滝のような汗をかきながら、小刻みに震えてすらいたのである。
「(ちょ、コイツ何かキモいんですけど!? マジ震え杉内じゃね? ちゃんと研修電波出してるんでしょうね!?)」
「(キモいのはアンタしゃんでしゅよwwww もうちょっとマシな設定あったのとちがいましゅか?wwww でも確かにオカシイでしゅね。覗き見する前にも、きっちり流しといた筈でしゅよ?)」
研修電波とは、所謂洗脳を目的としたエネルギーの波である。
この電波をその身に浴びた者は、特に理由もなく異世界へ強い憧憬を覚えるのだ。
昨今の創作界隈でやたらと異世界ものが増えているのも、この電波のせいである。
ただ、持続性がないので、定期的に流さなくてはならないのが玉にキズだ。
審議 ( ´・ω) (´・ω・) (・ω・`) (ω・` ) する二匹の横で生まれたてのバンビが如く震えていた猛風であったが、とうとう感情を堪えきれなくなったようだ。
突然、ジャンピング土下座を華麗にズッシャア!とキメると、残像が見える程の勢いでヘドバンを始めた。
『ご、ごめんなさい! 自宅だと思って、うっかり間違って入店してしまいました! 私、お金持ってないんです!すぐに出ていきますので、どうかご勘弁を!』
どうやら猛風は、ここをヤバいお店か何かと勘違いしているようだ。
確かに、それっぽいケバいおねーちゃんが二匹、三つ指ついて待ち構えてたらそう思うのも不思議ではない。
猛風が這い蹲ってトゲザする様を想像していたが、この思てたんと違う状況には流石に狼狽える|女神《ビッチ》。
「ハァ!? ちょ、アンタ何言って・・・・」
「ピシャシャ・・・・! 兄ちゃん、ウチは格式高いお店なんでしゅ。入店するだけでも料金発生するんでしゅよ! そんじゃお会計10万になりまーしゅ!」
「んなあっ!? おいバカ、止めなさいよ! わたくしを何だと思ってんの!?」
『ヒ、ヒイ! そんな大金持ってません! 勘弁してください!』
調子に乗って猛風を脅す|天使《メスガキ》。
この予想外の展開に、思わず素がでる|女神《ビッチ》であるが、その意識は猛風の誤解を解くより、ケバいキャバ嬢だと思われてネタに被せられた事に向いていた。
「このぉ! 調子に乗るなっつってんのよ、氏ねクソ天使! フン!」デュクシ!
「あっへぁ!」バッタリ
指を四本束ねた渾身の刺激的絶命拳を受け、白目を剥いて倒れ伏す|天使《メスガキ》。
雪辱を果たした|女神《ビッチ》は、指にフッと息を吹きかけた後、とりあえずこの愚か者を端っこに転がしておいて、改めて猛風と向かい合った。
「ここはそういうお店ではありません。神が住まう聖域なのです。お金なんて取りませんから、どうぞ安心なさってください。(まぁその代わり命貰うけどねwww)」
『お、おお・・・・。そうでしたか、私はてっきりお高いお店だとばかり・・・・。その、以前、上司に無理矢理連れていかれた所に、貴女の様な女性がいらっしゃったものですから、勘違いしてしまいました。申し訳ありません』ペコリ
「・・・・ッ! いえ、よいのです。大丈夫で、問題ないのですよ。(コイツ! さらっとディスりおってぇ! ぜってー|命《タマ》ぁ取ったるけぇのぉ!)」
密かに殺意を募らせる|女神《ビッチ》。
とはいえ、このまま猛風に時間を与え、冷静さを取り戻されては元も子もない。
まだ混乱している内に、一気に口説き落とさねばなるまい。
「と、兎に角、わたくしの話を聞いてはもらえないでしょうか・・・・。今この世界は危機に瀕しております。貴方の助けが必要なのです!」ウルウル
再び三文芝居に入る|女神《ビッチ》。
自らの涙腺まで操る熱の入りようだ。
だが、そんな|女神《ビッチ》を前にして、猛風は義憤や庇護心とは違う感情を抱いていた。
『(お願い・・・・? 一体何の事だろう? むっ! そうか! このクライアントはソフトウェアの発注がしたいんだな! 早速仕様の説明に入るとは、中々話の早い取引先ですね!)』
違う、そうじゃない。
SEである猛風は|女神《ビッチ》が契約内容を語る取引先に見えたようだ。
その溢れんばかりの社畜・ソウルを遺憾なく発揮し、早速鞄からメモを取り出すや、一言一句聞き逃すまいと気合を入れた。
『ええーっと、確か、ワクロビア様・・・・でしたか? 貴女は具体的に、どの様な物がご希望なのでしょうか?』(`・ω・´)キリッ
「(えっ!? 何コイツ、急に引き締まった顔しよった! ちょっとカッコいいじゃないのさ! トゥンク・・・・)ふぇっ!? あぁ、えっとですね、わたくしが管轄する世界である、コラウン聖界の危機を救っていただきたいのです」
突然技術屋の顔になった猛風に不意を突かれ、不覚にもトゥンク・・・・となった|女神《ビッチ》。
しどろもどろに、|天使《メスガキ》が笑った安っぽい設定を語る。
『世界の危機・・・・ですか? して、どのように危険が危ないので? (メルヒェンチックな理由だな。という事は、これはゲーム開発の話に違いないぞ)』
「はい・・・・。我が世界は、これまで人々が平和に暮らしておったのですが、何時の頃からか魔王を名乗る邪悪な者が、魔族と魔物を引き連れ、世界中の国々に戦いを挑んできたのです! (漢はこう言えばみな|イチコロ《転移》よ!)」
『ほう! 魔王と、その配下ですか。なるほど・・・・(ウム、やはり典型的なRPGだな。少し設定が古いような気もするが、ケータイアプリならアリか?)』
その攻めて来た魔王一派を作ったのは、他でもない|女神《ビッチ》である。
ある程度暴れさせ、それを転移させたものに討ち取らせ、人々に恩を売って自らの信仰を得る。
ついでに両陣営の被害者からエネルギーを獲得、討ち取られた魔王の分すら残さず回収するという、アブハチトラズ、隙を生じぬ二段構え!
これぞ正に、典型的なマッチポンプである。
「人々は力を合わせ、懸命に戦い続けたのですが・・・・ 徐々に劣勢に追いやられてしまいました。その中で、英雄と呼ばれる程の強者たちも、一人、また一人と倒され、とうとう誰も居らぬ様になってしまったのです・・・・(´;ω;`)ウゥゥ」
『な、なんと! 中々キビしい状況ですね・・・・!(序盤の高難度は何時の時代でもあまりウケが良くないのだが? 果たしてこれは、デザインと演出を考えた物なのか、それともあくまで高難度を要望されているのか、どちらなのだろう?)』
猛風の微妙な反応にコイツちゃんと話聞いてるのかしらと不安を覚えつつも、一気に止めの殺し文句にかかる|女神《ビッチ》!
「そんな滅びに瀕した人々の願いを受けた、このわたくしの祈りに応えてくださった貴方様こそ、世界を救う真の勇者! どうか我が世界へ赴き、光を取り戻してください!(決まったー! はい、勇者様(笑)のごあんなーい、ってねwwww)」
『ほう、そういう入り方なのですね、中々分かりやすくていいですね! しかし、ここまで序盤がキツめですと、ついていけないユーザーも居るのではないでしょうか?(導入の演出としてはいいが、実際この高難度は運営の方法、ガチャや課金ありのアプリか、通常のシェアウエアかで扱いが変わってくる要素ですね)』
入り方?
ユーザー?
ちょっとコイツマジ大丈夫かしら!
と更に妙な手ごたえに首を捻りつつも、ひとまず肯定と見て話を続ける|女神《ビッチ》。
「も、勿論、戦う術はきちんと授けますよ! 選ばれし勇者には、特別な力が与えられるのです! (といっても、この世界基準だけどねwwww 残った力はぜーんぶわたくしのもの! ワタクシオマエマルカジリ!)」
『ほう! 特別な力ですか! サポート要素があるのですね。具体的には?(という事は、このゲームは課金アプリらしいな。戦闘のスキル等をガチャや課金要素として販売するという運営をするんだな)』
|女神《ビッチ》のいう「特別な力」は、所謂チート能力の事である。
鑑定、自動翻訳、無限収納等の三種の神器をはじめ、武技や魔法の心得、身体や思考能力の向上、果ては無限魔力や万物創造、絶対破壊といった強力なものまで、実にバラエティに富んだ内容である。
(一つの能力につき、大体10~50hrp必要である)
が、これらの能力は当然ただで発現するわけでは無い。転移した者のhrpと引き換えなのである。
|女神《ビッチ》を始めとする愚か者共の狙いは、能力を発現させる為にhrpを変換する過程ででた余剰分をピンハネする事である。
しかし、幾ら神とはいえ、いきなり|転移《拉致》した人間のエネルギーを抜き去ってしまう事は出来ない。
神が人間に力を行使するには、自身の管轄下にある事が条件である。
つまりは、転移の同意を得て、自らの世界に引き入れる必要があるという事である。
躍起になって転移を迫るのはこういう理由からくる。
転移に同意するという事は即ちその世界の理に従うという事である。
そうなって初めて、転移者に内包するエネルギーを自由に出来るのだ。
ましてや、猛風は推定で20万ものhrpを持っている。
例え彼が100個の能力を希望し、それを発現させたとて、使用するパワーは多くて精々5000hrpである。
転移させたり、残しておいたりする諸々の分を差し引いたとて、残りはまだ19万以上あるのだ。
必死に食い下がるのも当然である。
「と、兎に角色々な能力ですよ! チートですよチート! ねっ、逝ってみる気になったでしょ!? (ええい、まだ他に欲しい物があるっていうの? はっ!? ま、まさかわたくしを狙って!? とんでもなく欲張りなやっこね!)」
『い、色々ですか・・・・? うーん、ハッキリしない事には実装は難しいかと思われますが・・・・(むう、どうやらまだ詳細が決まってないようだな。これは一度上役に相談した方がよさそうだな)』
雲行きが怪しくなり、見当違いの自意識過剰な懸念を抱く|女神《ビッチ》。
足りない脳で頑張って交渉したものの、イマイチな手ごたえに遂には焦れる。
「ッ! ええい、アンタね、いい加減にしなさいよ!? さっきからユーザーだの実装だの訳の分からん事言いよってからに! 逝くの!? 逝かんの!? どっちなのさ! 答えなさいッ!」(# ゚Д゚)ウガー!
『!? ええー!? も、申し訳ありません。私にはご期待に添える事が難しそうです。この事は、一度社に持ち帰って検討させて頂きます。では、失礼します(うう、何故か突然怒鳴られてしまった。こちらでも具体的な形で提案が必要だったか。やはり上役の手を借りなければ。ここは一旦退散しよう)』(;´Д`)
突然キレ始めよった|女神《ビッチ》に理解が及ばなかった猛風は、一度距離を取って相手が冷静になるのを待つことにした。
慌ててメモ帳をしまい込み、ドアのあった方へ振り向く。
そんな猛風を|女神《ビッチ》が鼻で笑う。
「ファファファ・・・・! 転移門はもうないのよ、ここから逃げようったって無駄よ! 逃がさん・・・・お前だけは・・・・! アキラメロン!」(´Д`)
だが、猛風が振り向いた瞬間、一旦消え去ったはずのドアが再び出現した!
「!? アイエェェェェ! トビラ!? トビラナンデ!?」Σ(゚Д゚;)
この男の持つパワーが|女神《ビッチ》如きが作ったハナクソめいたチンケな世界なんかに収まるはずもなく、早速影響を及ぼした。
凄まじいまでの傑物力が、彼の「一旦社に戻らねば」という強い社畜魂に呼応し、この世界の枠組みをアッサリと越え、次元の壁をもブチ破る力を発揮したのである。
実際、彼がもつ傑物値をもってすれば、あらゆる世界を自由に行き来するなど造作もない事。
持ち帰るべき案件に夢中で、扉が消えていた事など気にもせず、さも当然といわんばかりに三千世界へと戻ろうとする猛風。
マズイッ! このままでは折角の獲物を取り逃がしてしまう!
こんな状況になれば、アフロになった時に感じた懸念を思い出してもよさそうなものなのだが、残念ながら|女神《ビッチ》の、2バイトもの容量を誇る脳内RAMは膨大なパワー求める欲望によってすっかり上書きされていた。
黙って猛風が帰るのを見て居ればよかったものを、何を思ったのか、遂には最悪の行動にうって出た。
(欲をかくとロクな事にならないと言う良い例である)
|女神《ビッチ》は、ここ一番の瞬発力を発揮し、猛風の前へ回り込むと、その鼻先に猫だましめいた柏手を放つ!
「に゛か゛さ゛ん゛! こうなったら実力行使よ! 堕ちろ、カトンボぉ!」パァンw
『うわ!(ドン引き) 一体何を、はっ! 足元が!? 落ちるっ! う、うわぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・・』ボッシュート!!テーレテレッテー♪
ナムサン! とうとう猛風は力づくで|女神《ビッチ》の世界へとノノ・ムラ=サンばりに引きずり込まれてしまった。
このように、相手の同意を得ずとも転移をさせる事は可能。
ただ力をピンハネ出来なくなるだけ。エネルギーの回収手段は、他にもあるのだ。
(面倒なうえ確実性に欠けるのでやらなかっただけである)
「ファファファ・・・・素直にいう事聞かんからこうなるのよ! これで20万総取りじゃあ! はなっからこうすりゃ良かったわ!」
相手の合意を取り付けて上前をはねる詐欺以外での回収手段とはただ一つ。
己の世界にて相手をSATHUGAIする事である。
つまりは
「アレレー!? 何かウチに迷い込んだ人が死んじゃった!? 可哀想! これはしょうがないわー! 一旦回収してウチの住人にするしかないわーwwww」
という、誰がどう見ても無理があるこじつけである。
だが、この殺り方はエネルギーを総取り出来る半面、欠点もある。
それは、どうしても相手を下界に堕とす必要があるという事である。
(同意さえ得られれば、下界に堕とさずともその場で搾りカスになるまで力を奪う事が可能。完全に初見殺しの詐欺行為である)
下界に居る者は神が直接手を下せないので、そのまま取り逃がしてしまうのが稀によくあるのだ。
ねっ、面倒な上、確実性に欠けるでしょう?
自らの|コラウン聖界《なか》に猛風を引き挿れた|女神《ビッチ》は、彼の持つ膨大なパワーの使い道を皮算用し、期待に胸を膨らませながら高笑いする。
「ファファファ・・・・ヤッター! ねんがんの20万hrpをてにいれたぞ! 何に使おうかな! 欲しかったアクセがいいかな? いや、部屋広くしなきゃ! それかいっそ、わたくし自身が宇宙となって、あのいけ好かないチリヤヌスとか、ウザいルヘリーデの所へ攻め込んで、連中の世界を奪うのもいいわね! そうやって力を憑けたら、いずれは三千世界にも攻め込んでやるわい! イクゾー!(テッテッテテテテ♪」
そうやって|女神《ビッチ》がどったんばったん大騒ぎしていると、ようやっと意識を取り戻した|天使《メスガキ》がケツをさすりながらヨロヨロと勃ち上がってきた。
「あげげ・・・・まだ何かちょっと違和感があるでしゅ・・・・。ヒデーじゃないでしゅかワクロビア様! メガちゃん、ちょっとフザけただけでしゅよ!? 幾ら何でも犯りスギでしゅよ、犯りスギ! ・・・・アレ? あのやっこは何処行ったんでしゅかあ?」( ^ω^)?キョトン
「ン? 何だアンタ、まだいたの! あいつサァ、何かワチャワチャ訳分からん事いって逃れようとするからサァ、次元の狭間へと消え去るがいい! ってしてやったのよ! こう、パァンwってね!(ガシッ ファファファwwww」パンパン
そういって、まるで徹夜明けの様なハイテンションで|天使《メスガキ》の腰を両手で抱え、自らの下半身をパンパン打ち付ける|女神《ビッチ》。
あまりのウザさに露骨に顔を顰めながら、何とかこの”場酔っ払い”の手から逃れ、呆れた声を上げる|天使《メスガキ》。
「ちょ、もう、ウザい! これ以上掘らんでくだしゃい! アンタしゃんの黒ずんだ|コラウン聖界《なか》に挿れたんは【よくやった!】でしゅけども、この後どうしゅるんで? このまま放っといたら覚醒(再行動可能・消費SP30)してもーて、アンタしゃん、「ひぎぃ! こんにゃの無理ぃ! |コラウン聖界《わたくし》裂けちゃう!><」ってなっちまうでしゅよ?」
覚醒とは、突如として異なる次元に移動した者が、己が身に内包する力を自覚して自在に行使出来るようになる事である。
仮にそうなった場合、猛風はこの|女神《ビッチ》を始めとする愚か者共が幾万、幾億の束になってかかった所で全く歯が立たない程の超存在となる。
もっとも、|コラウン聖界《ゴミ溜め》など猛風のパワーを抑えきれなくなって|女神《ビッチ》毎爆発四散するので、戦いにすらならないだろう。
一応、長年この|女神《ビッチ》の参謀役として共に過ごして来ただけあって、危機管理力はそれなりにある|天使《メスガキ》。
当然の如く懸念を口にするも、この|女神《ビッチ》は、何時もの様に狼狽えるどころか、寧ろ
「フッ、いい質問じゃない! アンタにしちゃ上出来よ!」(`・ω・´)ドヤァ・・・
と言わんばかりのドヤ顔を披露しながら答える。ウザい。
「ファファファ・・・・大丈夫よ、問題ないわ! わたくしが抹殺すると宣言した以上、あのやっこが堕ちるのは煉獄以外にありません!」
「ピシャ!? 神が人に罰を与える等と!?」
「わたくしワクロビアは、粛清しようというのですよ、メガスキエル!」
「エゴでしゅよそれは!?」
「|コラウン聖界《わたくし》が保たぬ時がきているのです!」(# ゚Д゚)ウガー!
突如として妙な小芝居を始める|女神《ビッチ》にうっかり乗ってしまう|天使《メスガキ》。
このやっこは生粋のお調子者であった。
「普通にsiri私欲じゃないでしゅかwwww んで、何処落としたんでしゅか?」
「フフフ・・・・。下拵えに魔王放ったじゃん? ソイツと|人間《ゴミムシ》共が遂に|最終決戦《アルマゲドン》をドヨノコーマアーイズ♪っておっ始めよったのよ!」
「ほう! っていうか、早速設定破綻しとるでしゅよwwww ケリついたらもうアイツ要らんでしゅよwwww」ゲラゲラ
「チッ、うるせーなwwww 思ったより|人間《ゴミムシ》共が気張ってんのよ! で、丁度良かったからサァ、その合戦場のど真ん中に放り投げてやったって訳ヨ!」
「あー、なるほど。それなら確かに放っといても|人間《ゴミムシ》が勝手にSATHUGAIしてくだしゃりますわな! 覚醒(再行動可能・消費SP30)する前に、直撃(防御補正無効・消費SP15)しちまおうって訳でしゅね! ・・・・何でその頭の回転を設定を練る方に回せなかったんでしゅかあ?wwww」
「しつっこいわねぇ! それはもう良いでしょうが!」(# ゚Д゚)ウガー!
ブッダシット!
この愚か者は、あろうことか猛風を強者たちが命のやり取りをする戦場へと放逐したのである!
幾ら強大な力を秘めているとはいえ、今の猛風はただのサラリマンである。
覚醒を成す前に鍛え抜かれた戦士や悪辣なる魔獣と対峙したならば、ひとたまりもなく屠られてしまう。
この憐れなる青年は、異界の地にて命運尽き果ててしまうのであろうか!?
すっかり戦勝気分となった|女神《ビッチ》は、猛風が持っていた8&12の袋を拾いあげると、高見の見物を決め込む事にした。
「そういやアイツ何か買ってきてたわね。これか・・・・おっ、焼き鳥とビールじゃんよ! ぬわぁ、疲れたもぉぉぉんwwww ンー、そろそろ下界に堕ちた頃合かしらん? ちょっとアンタ、ブイだしなさいよ! 一杯やりながら観戦しよ!」
「ピシャシャ! ラジャ! ・・・・おっ、堕ちてんじゃーん! ビールビール!」
|天使《メスガキ》がホロ・モニタを勃ち上げると、そこには人間と魔族の軍勢が睨みを利かせ、今まさに戦いの火ぶたが切って落とされようとする、炎の匂い染みついてむせそうな戦場が映し出されていた。
その両者の真ん中に猛風が一人、ぽつねんと佇んでいる。
それを見たアホ共二匹が、ベースボールリーグの、古参チーム同士がぶつかる伝統の一戦カードを前にしたおっさんの様にビールとつまみを開き、観戦を始めようとした、まさにその時。
・・・・はい、用意スタート・・・・
という、ダルそうな兄ちゃんの声が聞こえてきた。
後半へ続く!
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