【RTA】異世界転生【game end glitch】

小説

長く苦しい戦いだった……

 何もない真っ白い空間にて、一人の女性が、眼前に広がる幾多のホロ・モニタと睨めっこし、眉間に皺を寄せぐぬぬと唸っていた。

 彼女は「シュクティア・ジョージュン」という名の女神である。

 底辺次元にて世界「ルナミーゼ・ワン」を開闢し、その発展を統括する、まだ駆け出しの創世神だ。

 その容姿はと言うと、黒髪をボブカットにして、メガネをかけた、何とも地味に見える顔だち……の様に見える。

 だが、それとは裏腹に、タイトスーツの様な衣装をこれでもかと持ち上げ、内側から破壊しそうな勢いのプロポーションはまったく地味などではなく、寧ろド派手であった。
(本神には全く自覚ナシ。そこ、いけないジュン先生とか言うんじゃない)

 そんな彼女が今見ているのは地上世界の、唯一生命と文明がある惑星の、もっとも栄えている場所の地表である。

 そこでは、禍々しい邪気を放つ魔王が高笑いしながら、配下の悪魔や魔獣の類を人々にけしかけ、酷い迷惑をかける様子が映し出されていた。

 この魔王、何時の頃からか地表に現れるや、瞬く間に勢力を拡大し、周辺の国々を蚕食してまわる、まさに害虫の様な存在である。

 ジョージュンはここ底辺次元では珍しく真面目に運営を頑張っている女神だ。

 その運営方針も堅実で、世界の設定を人々に強すぎる力を与えない代わりに、魔物等の危険な存在を発生させない様にして、伸び伸び発展出来るように配慮している。

 だが、この魔王はその設定を無視して現れた、所謂バグ的なイレギュラーである。

 当然、人々は力を合わせ果敢に立ち向かうも、元々が頼りない者達が束になってかかったとて、到底敵う相手ではない。

「ああ、このままでは私の可愛い子らが皆殺しにされてしまいます……」

 慈愛の女神が憂い、嘆く。

 勿論、彼女とて手をこまねいて見ていた訳ではない。

 自身でもこのG的な輩を排すべく、トラブル解決サイトである”ユーニバス・アンダーフロー”や”Godita!”を参考にし、世界の根幹システムunivaxをあれやこれやいじってはみた。

 だが、この|魔王《害虫》は自身の力をも超えた存在であるらしく、|世界の理《デバック》によって排除する事が出来なかったのである。

 今も又、魔獣がいたずら半分に人々の命を奪う様が見て取れた。

 更に他の場所では、礼拝堂に集まった人々が、懸命に自らの女神へ救いを求める祈りを捧げている。

 そんな様子を見かねてホロ・モニタから目を逸らし、肩を震わせて静かに泣くジョージュン。

 主の痛ましいまでの憔悴っぷりに居ても立っても居られず、傍らにて控えていた天使、インチヨウエルが意見を具申した。

「ジョージュン様! ここは転生術を使うべきかと!」

 転生術! つまりは異世界転生である。

 別次元に住まう魂を自らの世界へと迎え入れる方法で、対象が死亡している場合に用いられる。

 だが、この術は、いうなれば他次元から魂を拉致する事に他ならず、神々の間では禁忌とされている。

 最悪の場合、高次元の神によって誅殺され、その身はおろか世界ごとズタズタにされてしまうだろう。

 普通なら即時却下する提案だが、今や危機的状況である。

 ジョージュンは自らの身を捧げる覚悟で転生術を試みる決意をした。

「それしか・・・・ありませんね。私はどうなっても構いません。世界を救う力を持った魂よ、我がルナミーゼ・ワンへ!」

 憂いの地母神が願いを込めた術は、一人の英傑をこの場に呼び寄せた!

 途轍もない閃光がここは譲れませんとばかりにカガッ! と発せられた後、片膝をついて蹲る若い女性の姿があった。
(デデンデンデデン♪ テレレーテレテーレーレー♪)

 彼女の名は「|波止場美奈代《はとばみなよ》」。

 赤子の頃に孤児院の前に捨てられていたが、一念発起して事業を起こし、一代で財を成す事で厳しい世間を逞しく生き抜いた女傑である!

 そんな彼女も寄る年波には勝てず、まさに今わの際であったが、地母神の祈りに導かれ、こうして託宣の間に呼び寄せられたのであった。

 その高潔なる魂は瑞々しい力に満ち溢れており、それに相応しい外見へと変化したようである。

「おお!」

「何と力強い英傑力か・・・・。異界の勇者よ、身勝手とは存じますが、我が世界へと転生し、魔王を倒して平和を取り戻してはもらえないでしょうか・・・・?」

『・・・・ン。いいよ』

「も、勿論断ってもかまいま・・・・えええ!? 即答!?」

『・・・・時は残り少ない。やるならあく』

「は、はい! ですが、そのままでは魔物に討ち取られてしまうやもしれませぬ。私の力で貴女に何か加護を授けましょう・・・・どんな力をご所望ですか?」

『・・・・無限収納。アイテムストレージとも言う。それだけでいい』

「え・・・・っと?」

「ジョージュン様、無限収納なら転生術の基本として既に組み込まれてます!」

『・・・・ふぅん。なら桶。あく』

「は、はい! 貴女の意識は16歳になると目覚めるようにしておきます! それまで出来るだけ安全な場所で誕生するように手配します!」

『・・・・トンクス。それじゃ早速ヨロ』

 こうして、美奈代は辺境の国「モコ・ヤーン」の第一王女・ミーナ姫として生まれ変わった!

 そして瞬く間に月日は流れ・・・・16年後!

 人々の懸命な抵抗により、戦線は何とか停滞状態にあった。

 戦火はここ辺境のモコ・ヤーンにまでは届かず、ささやかながらもミーナの誕生日を祝う宴が催されていた。

 そんな災いの渦中に生まれた僅かな安らぎのひと時がたけなわとなった頃。

 喧噪を避ける為、お城のバルコニーに一時避難していたミーナであったが、その中に眠る美奈代の意識が遂に「ピキュウン!」と目覚めた!

 その様子をホロ・モニタで見ていた地母神と|天使《委員長》が歓喜に涌く。

「おおっ!?」

「とうとう、勇者が目覚めたようですね・・・・ああ、どうかこの世界を御救いください・・・・」

 そんな慈母の女神の嘆きと祈りに呼応するかのように

 ・・・・はい、用意スタート・・・・

 という、何かダルそうなにーちゃんのツイートが託宣の間に響いた。

「? 何か仰いましたか?」(^ω^)?

「ハテ? わたしは何も申してはおりませんが!」(‘ω’)?

 姿なき声に首を捻るも、ミーナの様子を見る為に再びホロ・モニタへと目を移す地母神と|天使《委員長》。

 意識が覚醒した|ミーナ《美奈代》は、さっと踵を返すや、自室へと戻った。

 そして卓上へ道すがら手にした物品を次々に広げていった。

 ロウソク、剣、ハンカチ、パン、カップ等・・・・

 物品には、何の統一も無いように思える。

「( ,,`・ω・´)ンンン? 一体何をなさっているんでしょう?」

「何処にでもありそうなアイテムですが・・・・旅の準備でしょうか?」

 地母神と|天使《委員長》が更に首を傾げていると、|ミーナ《美奈代》は徐に全ての物品を収納、一つづつ入れては出す、という事を繰り返しはじめた。

 増々もって謎行動に理解が及ばないでいたその時。
 
 |ミーナ《美奈代》が先ほど収納したのとは別の物品が取り出されたのである!

「んなぁ!? アレェ? さっき入れたのはパンですよね? どうしてミスリルの剣が出てくるんですかぁ? ナンデ?」Σ(・□・;)

「私にもそう見えます! どうやら見間違いではないようですが、これは一体!?」

 地母神と|天使《委員長》の驚きなどお構いなしに、次々と物品を出し入れする|ミーナ《美奈代》!

 ミスリルの剣から、ブルースチールの鎧、オリハルコンの盾と・・・・

 どんどんパワーアップしてゆく物品。

 ・・・・これは「サブフレームリセット法」と呼ばれるテクニックである。

 無限収納に物品が収められ、データ化が完了するまでの瞬きより僅かな瞬間に素早く取り出し、アドレスを少しづつ改ざんする事で別の品物を捏造する方法である。

 |ミーナ《美奈代》は、この手段を用いてエンディング条件となるアイテムを強引に作り出そうとしているのだ。

 そして遂に、|ミーナ《美奈代》の手に光り輝く宝珠が取り出された瞬間!

 託宣の間に眩いばかりの閃光の|ミーナ《美奈代》が鎧袖一触よ、心配ないわとばかりにカガッと迸った!

「「きゃああ~~~~!! 眼が、眼がああ~~~~!!」」(>Д<)

 滅びの呪禁を浴びた情報将校の様にのたうち回る地母神と|天使《委員長》。

「いったーい! 何にも見えませぇん! ひーん!」ゴロゴロ

「あうう! |範囲回復《メ・レスト》! |範囲大回復《メ・レストラ》! |範囲超回復《メ・マハレスト》!」ゴロゴロ

 思いつく限りの回復術を唱え、何とか視力を回復すると、なんと眼前にて、下界に居る筈のミーナが佇んでいた!

「はうあ! 何で此処にミーナさんが!?」Σ(・□・;)

『・・・・ン。世界救ってきたよ? ハイコレ、封印の宝珠』スッ

「は、え、ええ!? こ、この美しい宝珠は一体?」

『・・・・これを地上の大聖堂に祀れば、もう二度と魔物が出てくることはないよ』

「そ、そうなのですか!? では早速地上へ施しましょう!」

 慌てて地母神が神託と共に宝珠を地上へと施し、それを人々が大聖堂の祭壇へと祀った時!

 自らの居城で呑気してた魔王以外の、全ての悪魔、魔物が

「ア゛ッーーーーーー!!♂」

という汚い断末魔と共に地上から消え去ったのである!

 突然の出来事に、皆がぽかん(^O^)としたんだな!

「「エエエェェェェエエエェェェ(´Д`)ェェェエエエェェェェエエエ」」

 神も人も魔王も仲良く大合唱である。

 そして魔王はというと、その身が光に包まれたかと思うと、なんと託宣の間へと姿を現したではないか!

「ぬぉっ!? わ、我は一体!?」

『・・・・チッ、うるせーな。アンタの仕事はもう終わってるよ』ドスッ

「げぴっ」ドッサリ

 |ミーナ《美奈代》が鋭い指突で魔王を射抜くや、一瞬で意識を刈り取る。

「ひっ!?」

「は! まさかこの者は魔王なのでは!?」

『・・・・ン。そうだよ。|魔王《ボール》が無いとシュート出来ないじゃん』

 ボールとは一体?

 と地母神が訝しむ暇もなく、|ミーナ《美奈代》は裂帛の気合と共に|魔王《ボール》を|蹴り飛ば《シュート》した!

『・・・・ンンン! プラズマウェーブシュート! フン!』ドゴォッ!

 あーっと!? 魔王君、吹っ飛ばされたぁー!?

 だああ~~~~~~!! と放たれた|魔王《ボール》は、遥か彼方へと遠ざかり、キラリ☆と星になった。

「うわあ! スゴイスゴイ!」キャッキャッ

「何と凄まじい・・・・あの者は一体何処へ飛ばされたのです?」

『・・・・落とし物は持ち主に返すのが当然でしょ?』

「そ、それは確かにそうですが・・・・落とし主とは・・・・?」

「あ! もしかしてあの魔王って、別世界の神が放った刺客なんですか!?」

『・・・・exactry(その通りだよ)。・・・・そろそろかな・・・・』

「はぁあ! な、何て事でしょう・・・・! しかし、そろそろとは?」

 この|魔王《ボール》、実は同じ底辺次元の神・チリヤヌスが放った刺客である。

 このアホは、一応底辺次元でトップの力を持ってはいるが、それは呆れかえる程のマンチTIPSにより得た物である。

 その内の一つに、敵性物を送り込んで弱らせた後、救いの手を差し伸べて世界を乗っ取るという、極めて下劣なマッチポンプを仕掛ける方法がある。

 そうやって初心な女神らをまんまとだまし、食い散らかしては力を奪って来た、まさに女神の敵である。

 このやっこは神々の集会・カミコンにて、ジョージュンの地味さに潜む破壊力ばつ牛ンのボディに目をつけ、こうして奸計を仕掛けていたのであった。

 だが、今回ばかりは相手が悪い。

 その策は見事に裏目に出る事となった。

 地母神と|天使《委員長》が尚も首を傾げていると、|ミーナ《美奈代》の眼前に拳大の、ルビーの様な美しい宝玉がスーッと出現した。

 宇宙の源、「生命の宝珠」である。

 宝珠は暫く宙に留まっていたが、やがて一人でに動き出すと、|ミーナ《美奈代》の手中に「プリッ♪」という珍妙な音を発しながら収まった。

「そ、それは生命の宝珠!? ミーナさん、それは何処から!?」

『・・・・落とし主からの迷惑料だよ』

「と、申しますと・・・・?」( ^ω^)?キョトン

『・・・・アホは滅びた、って事だね』

 一筋の流星となった|魔王《ボール》は、見事チリヤヌスの股間をゴールネット毎打ち抜き、その世界諸共粉々に粉砕したのであった。

 余りの急展開についていけず、地母神と|天使《委員長》が声も出せずにいると、

「お~い!」

という呼び声と共に、二柱の夫婦神が此方へと駆け寄ってきた。

 芸術と料理の神オイラスと、時空を司る神パストラルである。

「すげぇな姉ちゃん! 新記録ですよ、新記録! なんと7分だぞ!」

「(^ω^)スゴイ」

『・・・・ン。まぁそれでもガチ勢には遠く及ばないね。ああ、これヨロ』スッ

「(´Д`)桶」

 パストラルが生命の宝珠を受け取り、その神力を流すと、宝珠から光の粒子が溢れ出て来た。

 だが、その数は少なく、密度もスカスカであった。

『・・・・ショボッ! まぁ雑魚の世界なんてこんなもんか。すっかり|浄化《吹っ飛ば》されてもう破片しか残ってないじゃん』

「うは! ここまでヒドいのも初めてみたぜ! 善良な意識が一つも残らんってある意味スゴくね!?」(;゚Д゚)

「(´-ω-`)ヒドイ」

 チリヤヌスの世界は浄化され、ただのエネルギーを残すのみとなった。

 これは、このアホの世界が完全に穢れ切っていた事を示す。

 呆れる三者を前に、取り残されていた地母神が恐る恐る尋ねる。

「あ、貴方がたは・・・・ミーナさん、貴女は一体何者なのですか?」
『・・・・あたし? あたしは・・・・』

 そう言って|ミーナ《美奈代》が地母神と向き合うや、その身が優しい光に包まれ、煌めく鎧を纏った凛々しい女神へと転じた!

『・・・・あたしはいくさの女神、パラス・メイン。三千世界より健気に生きる者達を救うべく遣わされた者だよ。・・・・そこの弟神オイラスはついでね』

「(*´Д`)ナットク」

「ついでってヒデェな姉ちゃん!? しかもパストラルまで!? おれ泣くぞ!?」

 なんと!|ミーナ《美奈代》は戦女神であった! それも三千世界の!

 思わず膝をつき首を垂れる地母神と|天使《委員長》。

『・・・・ああ、大丈夫、問題ないよ。あたしらそんなにエラくないから』

「ええー!? ウルティメイトランクの神さんなのに!? いいの!?」

「はあ! なんという事! 上位神族は私達を見捨ててはいなかったのですね! ですが、私は禁忌を犯しました。如何様にもお裁きを受けるつもりです」スッ

「ああ、ジョージュン様・・・・。わ、わたしもオトモします!」

 なにやら盛り上がってる地母神と|天使《委員長》を前に、頭を掻きながら困惑するパラス・メイン。

『・・・・ああー、そうだね。確かにやっちゃった感はあるねぇ。じゃあ、こうしよう。オイラス!』
「おうっ!」

 パラス・メインがオイラスを促すと、持っていたギターを弾き始めた。

 託宣の間に激しいビートが刻まれる!

 すると生命の宝珠から漏れ出て漂っていた光の粒子が集まって一つになると、ジョージュンの豊満すぎる胸へと吸い込まれていった。

 おもわず「ンアッ・・・・♡」と声を漏らす地母神。

『・・・・その|生命力《ユニバース》はアホなやっこに弄ばれた憐れな命のなれの果て。貴女が正しい道へと導いて。・・・・それが刑罰だよ』

「うははwwww メンドイから押し付けたともいうな!」

「( *´艸`)ウププ」

『・・・・チッ、うるせーなwwww 余計な事いうなし』ゲシッ

「プギャッ!」

 恥ずかしがるパラス・メインに蹴りを入れられ、悶絶するオイラス。

 そんな二柱の神に苦笑いしつつも、地母神は神妙な面持ちで答えた。

「わかりました、偉大なる戦女神よ。身命を賭して、この憐れな命を導いてみせましょう!」

「わたしも、わたしもお手伝いします!」

「ありがとうインチヨウエル。これからもよろしくね!」

「はい!」

 この三柱の神は、禁断の転生術を使わざるを得ない程逼迫した世界を救う役割を担っている神である。

 彼らの活躍により、また一つの世界が救われた。

 地母神に見送られ、颯爽と三千世界へと戻る三柱であったが・・・・彼らに休息の時は無い。

 欲望にまみれ、他世界へと手を伸ばす悪はまだいる。

 それらが全て滅び去るまで、彼らの戦いは続くのだ!

 行け、美奈代! 戦え、パラス・メイン!

 最後に余談だが、この後一念発起したジョージュンはインチヨウエルと力を合わせて世界を運営、発展に導き、遂には次元昇華を果たしたのであった!

おわりw
 
 

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