第11話 苦労人と、宇宙聖女(その9).2

「!? な、何でじゃあ!? その論文の出来ならば、君らを改心させた上でワシの|冒険心《アドベンチャー・センシズ》に染め上げる事すら可能であったはずじゃあ!」

「それはそれ、これはこれですよ|教授《ハゲ》!」

「さよう、うぬは小賢しくも、汚名を宇宙の彼方まで返上して名誉をより大きく取り返したつもりであろうが……この程度ではまだまだ。それこそはくちょう座V1489星よりも巨大な大赤字よ!」

「そりゃヒトが逝ける範囲で一番デカい恒星じゃろうがあ~!? どんだけ悪いの!? ワシはただ、己が欲するままに|冒険心《アドベンチャー・センシズ》を燃やしとるだけじゃん! こんな害のない老いぼれそうは居らんぞぅ! 兎に角脱稿したんじゃから、解いて! ねっ!? 解いて!(ドッタンバッタン)」

「ええい、黙れ黙れ! このハゲェ……ゆ゛る゛さ゛ん゛!」

 フジャケルナ! モアイ!
 アンタガナ、アンタガスベテワァールインダヨォ!
 オグャウゥン!
 オレノジャマヲスルナラカタイプロポッポデロ!
 ミダダァ! クサァ!

 何故か|ジョーンズ《ハゲ》の周りをくるくる回りながら口論する億代。
 これまた妙なエコーがかかっていて、二人の言葉が聞き取りづらかった。
 
 己が評判を包み隠さず、全力怪童怪物威力ハイスピンジャイロ剛速球ばりに叩きつけられて尚見苦しく喚く|ジョーンズ《ハゲ》。

 その様は、万人をして「日頃の行いは何より大事」という事を思い知らせるに足る、破壊力ばつ牛ンの威力であった。

 そんな|ジョーンズ《ハゲ》のブレないハートに苦笑する哲人。
 
 とはいえ、このままでは議論がどったんばったん大騒ぎ、押し合い圧し合いとなってメビウスの輪から抜け出せなくなり、幾つもの罪を繰り返してしまう事は確定的に明らかである。

 人という生き物は……運命を、そして未来をも変る為、時の向こう、闇の向こうへと。
 皆が幸せに、許し合えるあの日を探していかねばならぬ。

 |ジョーンズ《ハゲ》の心にもあるだろう、人の心の光。
 哲人は、それを信ずる自身の姿を、義憤を募らせる若き勇士らへと見せて、これをなだめる事にした。

『ンッフフフッ……! まぁ二人とも。気持ちは分らんでもないが、ここはセンセイを解き放つ所だろう。現にこうして脱稿せしめられてしまっているし、我らが約束を違える訳にはいかないだろう?』

「!? そうじゃそうじゃ! やったよワシ、ワシやった! お仕事もする約束をちゃんと守ったぞい! やる事をやったらば、後は自由な筈じゃあ! ……それとも何かね、そんな小学生でも分かるような理屈を、諸君らは理解出来ぬとでも申すのかね? ンーwwww? それでも理系の院生かね!?」

 思いがけぬ哲人からの援護射撃に、調子が有頂天となった|ジョーンズ《ハゲ》。
 鬼の首を取ったように、ここぞとばかり、二人をウザったらしく煽り散らかしよる!

「くっ、このハゲェ……言わせておけば……!(ギリギリ)」

「いかに論文が予想以上の仕上がりであったとて、|教授《ハゲ》を完全に信ずるには値しません……。ですが、難題をヤリ♂切ったのもまた事実……!」

 哲人の説得を持って尚、矛を収めきれぬ億代と貴将。
 やはり日頃の行いというものは何よりも大事である。

『ここは私を信じ、センセイを解き放ってはくれまいか? 私が見ている以上は、きっちり抑えてみせるさ。なに、次はそう不覚をとらないよ』

「そうそう。ワシだって、天の川銀河随一の豪傑から二度も不意を憑けるとは思っちょらん! あんなのはマグレじゃ! 大人しくブリッヂで天体観測しとるから、早いところ解いてくれい!」

 哲人の覚悟完了した姿を前に、妙にしおらしくなる|ジョーンズ《ハゲ》。

 こんなものを見せられては、流石の二人も諦めざるを得ぬ。

「ンン~……! 仕方ありませんね。 今回は特別ですよ!」

「フン! 呆れ果てる程命冥加なやっこだ! 賢台に感謝するだな!」

「きゃっほう! そうこなくっちゃ! 流石はワシが見込んだおのこらじゃあ! 人はだれしもが話せば分かるもんじゃな! ガハハ!(ウネウネ)」

 解き放たれる期待にその身を激しくうねらせる|ジョーンズ《ハゲ》。
 それは、どギツイ蛍光色の繭から今まさに羽化せんと蠢く毒蛾が如き見苦しさである。

『スマンな、二人とも。しかし、私もまだまだ修行が足らんようだな』

「フッ、それは言わぬ約束だぞ賢台よ」

「とはいえ、これから先、似たようなやり取りを何度も繰り返すんだろうなぁ……」

 哲人の説得(?)に応じ、渋々|ジョーンズ《ハゲ》を解放する貴将と億代。
 彼らは、これから訪れるであろう|ジョーンズ《ハゲ》の尻ぬぐいに奔走する運命を前に、眩暈すら覚える。

 それとは対照的に……。

「ホッホゥ! 自由じゃフリーじゃ最高じゃあ! ヨシ! 早速天体観測するぞ! まぁ恒星なんぞ何十年睨めっこしとった所で、今更分かることなんぞなーんも無いじゃろうけどなw 「星の寿命は長く、我らの寿命は短く、何も分かりません!(キリッ)」ってな! ガハハ!(ピョンピョン)」

 解き放たれたプロメテウスが如く飛び回り、狂喜乱舞するハゲ。
 そのうざったらしい姿は大変見苦しく、有体に言ってうざかった。

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