第7話 苦労人と、宇宙聖女(その5)

まさかの「その5」 だがまだちょっとだけ続くんじゃあ〜
相変わらずクッソ長いです、ご注意ください。

前回までのあらすじ

new! 宇宙聖女の為にライダーになったよ!
new! ハゲがオカンにアルティメットKOされました。
new! 欲望が最高潮に達した時、人はライダーになるらしいです。
new! Tethuhitoは穿宙天彗蹴をラーニング!
new! *ドスン* *ドスン*

*** どこか ***

 仄暗く広い空間の真ん中に、小さなお社があった。その周囲にのみ照明が備え付けられており、暗闇の中からその姿を浮かび上がらせていた。

 目を凝らすと、そのお社はそこそこ広い泉の中央にある事が分かる。
 更に、お社の屋根から巨大なトーチの様なものが伸びてはいるが、火は灯ってはいなかった。

 お社の正面にある水面には、石で円形に囲われた部分があり、その石には注連縄がかけられていた。

 この神秘的な泉の向こう側、お社の裏手側は巨大なガラス張りになっており、そこから青く輝く地球が見える様になっていた。地球圏のどこかの展望台であろうか?

 そこでは、憂いを帯びた表情の、千早を身にまとった淑女がひっそりと佇んでいた。

 こういった服装の女性が居るという事は、この場所はどこかの神社なのであろう。

 その淑女は、地球の姿をしばし眺めた後、巨大なトーチの、灯りがない先端を見やると、更にその表情に憂いを増し、折角の美人が台無しになっていた。
 そして海より深いため息をついた後、この場から立ち去ろうとお社を回り込んだ・・・その時である。

 お社の正面、円形に囲われた水面から神々しい光が・・・それも二つも・・・立ち上ったあと、そこから巨大な水球が同じく二つ、ゆっくりと浮かび上がって来た。

 その中には胎児の様に膝を抱えて眠る年若い娘の姿があった。

「おお・・・・おお! 新たなる益荒男が、この宇宙に生まれました・・・・それも二人も! ああ、なんと素晴らしい事でしょう! 御両神よ、銀河の益荒男と、それに仕えるこの娘らに祝福を!」

 先ほどまでの悲し気な表情など無かったかのように、恍惚とした表情で新たなる命の誕生を喜ぶ淑女。
 しばしの間、淑女はこの光景に見とれていたが、はたと気が付くと、慌てて奥にある本殿の方へ走っていった。

 そして、衣服を手に戻ってくると、袴が濡れる事もお構いなしに泉へと飛び込み、石で囲われた部分までざぶざぶと歩み寄った。この泉は別に深くはないようだ。

 そうして淑女が両の手を広げると同時に水球が音も無く弾け、照明の淡い光によってキラキラと輝く粒子と共に、二人の娘がふわりふわりと空中から舞い降りて来た。
 淑女は彼女らを一人づつ抱きとめると、泉の脇にまで連れてゆき、そっと衣服を着せてやった。

 その後暫くの間、淑女が娘らの様子を心配そうに見守っていると、娘らが目覚めたようだ。
 静かに目を開いた後、上体を起こして周囲を見回し、やがて淑女の顔を認めると、安心した様に微笑んだ。

 その愛おしさと新たなる娘らが誕生した歓喜の余り、思わず娘らに抱き着いた淑女は実に締まりの無い表情になるも、ハッと気づいてかぶりを振ると、神妙な面持ちとなって二人の娘らに語りかけた。

「宇宙を駆ける益荒男にのみ仕えし一途なる戦乙女よ。その身命を賭して、己が主に降りかかる一切の災いと外敵に立ち向かうのです。そなたらの主の元へは、わたくしが連れて行って進ぜましょう。・・・・そなたらに御両神の加護があらんことを!」

 同じく真剣な表情で淑女の訓令と激励を聞き、こくりと力強く頷く娘ら。

 しばらくの間、そうやって「キリッ」と向かい合う三者であったが・・・・

 やがて堪えきれずに皆笑顔に戻ると、今一度、熱い抱擁を交わすのであった・・・・。

***どこか おわり***

 近畿エリア大学へ辿り着いた哲人は早速考古学科のある学舎へと向かった。

 律が既に話を通していたのだろう、入門は極めてスムーズにできた。

 学内ナビゲーションに従ってしばらく歩いていると、出迎えに来てくれた律とハムナプの姿が見えた。
 そして握手と挨拶を交わしたあと、宇宙考古学研究チームの入っている学舎へと案内された。

 その道すがら、ハムナプが妙に自身を気にしている様子であったのを哲人が尋ねると、地方から出て来た、異性に免疫の無い乙女が見たら一発で参りそうな爽やかなイケメンスマイルを浮かべながら

「実は私は君の事を知っていたんだ。君は確か、ビッグポート高の出だろう? 私もそこの卒業生なんだ。君とは二つばかり上だから、面識は殆ど無いけどね。」

と答えた。

 なるほど、それなら納得だと哲人は思ったが、まだ分からない事もある。

 哲人は高校時代、ガーディアンに入隊する為にひたすら自宅で修練に励むべく部活にも入らず、学業も一応優等の部類に入るようにしていた。
 よって、特別劣等生でもなく、さりとて、逆に何か目立った成果を出す学生では無かったはず・・・・。と思っていたのだが。

 その事をハムナプに問うと、楽しそうに笑いながらこう答えた。

「いやなに、私は当時生徒会長でね、風紀の問題なんかも取り上げられる事もあったんだが、3年になってから、急にガラの悪かった・・・・所謂不良学生かな、そういった連中が、突然頭を丸めて真面目に登校しているって報告がたくさん入ってきてね。妙に思って、調べてみたら、皆口をそろえて「斉天大聖にやられた」って言うんだよ・・・・。これって、星永君、君の事だろう?」ニヤリ

 意外な所から名前と面が割れていたことを知り、哲人はちょっと恥ずかしくなった。
「あれ、俺なんかやっちゃいました?」状態である。

 確かに多数の不良学生をやむなく懲らしめた事はあったが、それは哲人にとっては、 ✝片翼の天使✝ 並みの黒歴史であった。

 哲人が高校にあがってすぐの頃に、懇意にしていた「コースト保護院」の前院長老夫妻が、港湾地区で走り回る「ゼクウェーイ♪族(通称ゼク族)」らによる騒音被害の悩みを訴えていたのを耳にした。

 哲人は、早速その週末に最も近傍の「小津島ポート=エリア」で活動していた「爆走小津島流星団」のヘッド「小津島のロクロー」に勝負を挑み、これを懲らしめた。

 騒音被害はこれで収まったのだが、図らずも膝を折られた「ゼク族」の方はというと、普通の一般人、彼ら風に言うところの「トーシロ」である哲人にヘッドが敗れた事は彼らの矜持を大きく損なう恥辱であった。

 彼らは失った誇りを取り戻すべく、全員で結託して哲人に挑みかかった。

 むきになって五月雨に襲い掛かる「ゼク族」を返り討ちにするのが面倒になった哲人は、逆に彼らに挑戦状を叩きつけ、これを一網打尽にした。

 かくして、哲人に敗れ去った「ゼク族」達は頭を丸めて真面目な学生に戻り、以降泉州一帯に「ゼク族」達が現れる事はなくなった。

 「斉天大聖」の呼び名は、この偉業(?)を成し遂げた哲人に対して、「ゼク族」達が畏敬の念を込めてつけたものである。

 そして最初に討ち取った「小津島のロクロー」が、実はハムナプと同級生でコースト小学校からのクラスメイトであった。
 「突然頭を丸めて真面目になった」という情報源は彼から齎されたのだ。

 そして月日が経ち、先日に行われた同窓会にて彼と再会したハムナプが理由を聞いた際にロクローが彼に事の真相を答えた、という訳である。

 妙な方向から揶揄われて落ち着きなくそわそわする哲人に、尚も当時の事を尋ねるハムナプ。そんな二人を微笑ましく見守る律。
 こうして和やか(?)な雰囲気の中、三人は目的の学舎へと辿り着いたのであった。



 一行が辿り着いた学舎は二階建てで、やや古いものの、結構な大きさのビルヂングであった。
 学校特有の、板張り床に使うワックスの匂いが懐旧を誘う。

 一階はまるまる講義室で、かなりの広さの教室にずらりと使い込まれた古めかしい机が並び、壁には巨大な黒板が備え付けられていた。

 黒板に書かれた講義内容を板書するのは、今も昔も変わらないのだ。

 懐かしさに浸る間もなく二階へ上がると景色は一転し、紙やら古い記憶媒体やらが山積みになっているデスクが並べられた部屋が目に入ってくる。

 二階部分は、全て研究棟となっている。
 中ではスタッフたる研究員の院生らが紙や電子メディアのデータを統合サーバーへ入力する作業を黙々とこなしていた。

 そして建物の一番奥、突き当りの部屋が|ジョーンズ《ハゲ》の|研究室《独房》である。

 哲人らは、旅団の結成と同時に、「宇宙聖女を救え!修学旅行隠密護衛作戦」を遂行するにあたって何が必要かを確認する為、|研究室《独房》へと入った。



 |研究室《独房》に入ると、スタッフらが作業をしていた所と同じように、紙やらなんやらが山積みとなったデスクがあった。
 その山の向こうに椅子に縛り付けられ、五平餅みたいになった|ジョーンズ《ミノムシ》が、泣きながら忙しなく目をキョロキョロさせていた。

 仮想ウィンドウの操作は別に手で行う必要はなく、視線で入力する事も可能である。
 よって、五平餅状態でも論文を執筆する事が出来る。

 |ジョーンズ《五平餅》がキョロキョロしているのはその為である。

 三人はそんな|ジョーンズ《五平餅》を尻目に、手前にある応接スペースにて議論をすべく、ハムナプと律に向かい合って哲人、という形でソファに着席した。

 と同時に、泣きながら執筆していた|ジョーンズ《五平餅》が三人に気づいた。

「ハヒ、ヒィヒィ・・・・(。´・ω・)ん?  おお! 哲人君! ようござった! 我が研究室へようこそ! 君を招き入れるのは大体20年振りかな? いや、もうちょっと前だったかな? ヒャア! もう我慢できん! 論文なんてくそ喰らえじゃあ! 早速深宇宙探索へイクゾー! ヨシ!」

 こう言って、縛られたまま器用に椅子をガッタンゴットンさせてにじり寄ってくる|ジョーンズ《五平餅》。
 ちょっとしたホラーである。小さい子が見たら間違いなく泣き出すであろう。

 そんな|ジョーンズ《五平餅》を見て「ぎょっ」とするハムナプと哲人。

 だが、律っちゃんは|ジョーンズ《五平餅》の余りの勝手な言い草にブチ切れた。
 般若の面(守備力+255)を被り、研究員らが旅先のお土産としてくれた、某県の特産品である、ゴムをぐるぐる巻きつけた様な見た目の警棒・・・・特定の名前は無いので「折檻棒」と呼ばれている・・・・を取り出し、|ジョーンズ《五平餅》をなじりながら打ち据える。

「もうっ! 何がヨシ! ですか! 何見てヨシ! って言ったんですか! まだ半分も終わってませんよ! それ終わるまで何処にも逝かせないって言ったでしょう!? 貴方の思い付きのお陰で、結成していきなり旅団でミッションしなきゃならないんですからね! それも殆ど哲人さんが! 誰のせいだと思ってるんですか! 弁えなさい! この、ハゲ! 串カツ! 五平餅!」ビシッ!バシッ!ドゴォッ!
「なっ、ワ、ワシはハゲてな・・・・ぐおぉ~~~~~~!! びぶぅ~~~~~!!」ドッタンバッタン

 この「折檻棒」、いかなる構造なのか定かではないが、その世紀末暴徒達が愛用するような禍々しい見た目とは裏腹に、思いっきりぶん殴っても全く痛くないという不思議な棒である。
 一体何故そんな警棒が存在するのかは不明だが、激しく打ち据えて「叱ってやった」という感じはこの上なく体感出来るので、律はいつもこの棒を使って|ジョーンズ《五平餅》を懲らしめる事にしている。

 「このまま眺めているのもいいか」という訳にもいかなかったので、律のとてつもない剣幕に若干腰を引きつつも、哲人はとりあえず彼女をなだめる事にした。

『律さん、それ位で勘弁してあげてください。話に乗ったのは私の意志ですし。それにさわ吉の頼みも聞いて貰ってますからね。センセイじゃないと分からない事もあるでしょうし、一旦休憩という事にして、一緒に意見の摺り合わせをしましょう』

 この哲人の言葉に、|ジョーンズ《五平餅》を折檻し、肩で息をしていた|律《般若》もようやく矛を収めた。

 般若の面(守備力+255)を外して席に戻る。

「むう・・・・確かにそうですね、直接現地に赴くのはこの|人《ハゲ》ですからね。まったく、命冥加な|人《ハゲ》です・・・・しょうがない、話がまとまる間までですよ!終わったらまた|執筆《五平餅》ですからね!」
「ひゃっほう! そうこなくっちゃ! 流石哲人君! さす哲! この休憩の内に深宇宙探索へ出発じゃあ! イクゾー! ヨシ・・・・!?」ビクッ
「・・・・・(#^ω^)ノ般若」スッ・・・ 「アッ、ハイ、サーセンッシタ・・・」シオシオ

 ようやっと|ジョーンズ《五平餅》が大人しくなったので、3人と一餅は旅団の設立とミッションの遂行にあたって何が必要なのかの議論を始めた。

 そうやって30分程した時、研究員である院生「|翻見約呼《ほんみやこ》」が、三人分のお茶とお茶請けを持って|研究室《独房》に入って来た。

「お疲れ様です、これどうぞ・・・・あっ、貴方が星永さんですね。あたし、翻見約呼って言います。宇宙古代語の翻訳を担当してる院生です。多分旅団のメンバーになると思うんで、今後ともよろしくお願いします!」アクシュ( ´꒳*)人(*´꒳ )ナカーマ
『星永哲人です。戦闘以外の事は貴女方が頼りですね。こちらこそよろしくお願いします』アクシュ( ´꒳*)人(*´꒳ )ナカーマ
「ひゃっほう! お茶じゃあ! ん? アレ? 約呼ちゃん、ワシの分は?」
「えっ!? |教授《ハゲ》、|脱稿《釈放》されたんですか? てっきりまだ|執筆《懲役》中だと思って淹れてなかったです! まあいいか! ヨシ!」
「おほう! よかないぞい! 何見てヨシ! っていったんじゃあ! 指さし呼称は基本じゃろ!? ワシのも! ワシのお茶も! ワシ茶! はよ!」ギッコンバッタン
「えー、やだ、面倒臭い! それに|縛られた《五平餅》状態でどうやって飲むんですか? 律さんに熱いお茶ぶっかけられても知りませんよ!? ・・・・あっそうだ、律さん、なんか|考古学研究室《ウチ》に用があるっていうお客さんが正門まで来られたらしいんですけど、どうします?」
「ここに・・・・? 用具の業者さんか何かかしら? そんな予定あったかな・・・・?」
「いえそれがですね、スゴイ美女が、これまたスゴイ美少女を二人連れて、ウチに居る人に会わせて欲しいって・・・・誰に会いたいかって守衛の人が聞いたら、会えばわかるっていって・・・・あっ、コレ美女が持ってた入門許可証です」

 そういって約呼が各人に許可証のコピーを送信した。

 許可証ドキュメントには、強固な電子証明である「ホロスタンプ」が添付されており、正当に発行されたものであると分かった。
 この「ホロスタンプ」は、幾重にもプロテクトが施されているので、偽造など決して不可能である。

 その許可証に捺印された、甲冑姿で、槍と盾を持った勇ましい女神を象ったエムブレムの「ホロスタンプ」を見た哲人が呟く。

『・・・・!? これ航宙軍の特殊部隊「ブリュンヒルデ」のエムブレムですね。するとその女性らは軍の関係者・・・・?』

 「ブリュンヒルデ」とは、零番地コロニーを本拠地とする特殊部隊の事である。
 航宙軍の指揮下から完全に独立し、通常の部隊展開が間に合わない場所や、ガーディアンでも手に余る程の凶悪な相手が現れた時に出動する、人類最後の砦である。

 一部のスペースローグや凶悪宇宙生物は、市井に紛れ込んで悪事を企てるものも多く、大概の場合お巡りさんには対処が難しいので、それを補う為に、このように都市部のあらゆる場所へ突入が可能な様に出来る権限を有するのだ。
 処刑パフォーマンスをするおバカさん達の居場所を特定、殲滅するのも彼らの主な役割の一つであるが、それを可能とするのがこの権限である。

「えっ!? ちょっと|教授《このハゲ》! 貴方一体何やらかしたんですか! とうとう犯罪めいた事するようになったんですか!?」ビシッ!バシッ!
「はへぇ!? 知らん! ワシャ知らんぞ! 探査だけは真っ当にやっとるわい!」
「親父・・・・流石におれにも庇い切れん、大人しくお縄についてくれ・・・・」
「はぎょお! ハムナプ、お前もか!? 何でじゃあ! ワシャ無実じゃあ! 何もやっとらん! 調査しかしとらん! ワシャ嘘なんかいっとらんぞお! 信じてくだされぇ!」
「日頃の行いだと思います! テレビの見過ぎですね! サヨナラ|教授《ハゲ》! オタッシャデー!」
「約呼ちゃんひでぇ! ワシほんとに何もやっとらん! 哲人えもん、助けてぇ!」

 誰が青狸型ロボットだと思いつつも、なんだか場がカオスと化したので、慌てて皆をなだめる事を優先する哲人。

『いや、皆落ち着いてください。ブリュンヒルデだったら、今頃センセイは岡山のお菓子「むらすずめ」みたいに穴だらけになってますよ。そうなって無い、という事は何か別の用事があるのでは? どっちにしろこの許可証がある限り彼女らはフリーパスでここまで来れる訳ですし、兎に角会って話を聞いてみましょう』

 こうして哲人の言う通り、どったんばったん騒いだところでどうにもならないので、先ずはこの謎の美女達を|研究室《独房》へと招き入れる事となった。



 しばらく後。
 謎の訪問者を待ち構える三人と一餅。

 約呼は面倒事の雰囲気を察し、既に研究スペースの方へと逃亡している。実に賢明な判断である。

 この場にいる|ジョーンズ《五平餅》以外の者は「正直関わり合いになりたくねぇ」と思いつつも、逃れられる相手では無いのも分かっていたので、諦めて大人しくしていると、扉をノックする者が現れた。

 律が「どうぞ」というと、美しい銀髪を総髪にした、千早姿の、嫋やかな淑女が楚々と室内へと入ってきた。

 括られた銀髪は三又に分かれており、中ほどからグラデーションの様に、それぞれ黒髪、白髪、金髪と変化していた。
 目元はやや釣り目で、赤い瞳をしていた。その他のパーツは人とは思えぬ程美しく整っていて、控えめに言ってものすごい美女であった。

 そんな不思議な淑女は、一同に礼すると共に自らの事を語り始めた。

「突然の訪問、失礼いたします。わたくしは「零番地宇宙戦姫神社」の宮司をしております、ホゥシエルと申します。此度は、この地にて新たなる|宇宙《そら》の益荒男が居られると聞き、こうして参った次第でございます」
『|宇宙《そら》の益荒男・・・ですか?それは一体・・・・?』

 哲人が疑問を投げかけると、謎の淑女・ホゥシエルはこの場にいる男三人を順に眺め、|ジョーンズ《五平餅》を見てちょっと驚いてビクッとした後、|ジョーンズ《五平餅》から目を逸らしつつ、哲人の手を取り、瞳を潤ませながら艶っぽく答えた。

「はい・・・・人々の未来を開く為に、宇宙の闇を駆ける戦人。確か今は「すぺぇすらいだぁ」と呼ばれておりましたか。あなた様らは、我らが御両神に選ばれたのです。そして・・・・おお・・・・何と雄大で安らぎに満ちた身気でしょう。やはり御両神の神託は大丈夫で問題ありませんでした・・・・。あぁ・・・・」スリスリ
『御両神・・・・? 確かに私は適性チェックを受けて、うっかりライダーになってしまいましたけど・・・・それと何か関係が?』

 いきなりスゴイ美女が瞳を潤ませて、その頬に自分の手をスリスリと頬擦りされた事にどぎまぎしながらも、哲人は彼女に問いかけた。

「あの「適性ちぇっく」のあぷりけぇしょんは、|宇宙《そら》の益荒男たる|男《おのこ》を見極めるものでもあるのです。そして、御両神はあなた様らを御認めになったのです。わたくしも今得心いたしました・・・・あなた様こそ、真の益荒男であると。ああ・・・・♡ 素晴らしい、なんと素晴らしい事でしょう・・・・」スリスリスリ
「( ,,`・ω・´)ンンン? あ~、そういやぁ、なんか色々ワチャワチャやった後に、誰かと会うた気がするのお! それ以外の事、全然思い出せんけど!」ギッコンバッタン

 尚もうっとりと、恍惚とした表情で手をスリスリ頬擦りするホゥシエルを振りほどく訳にもいかず、哲人はされるがままになっていた。
 それに代わって、横で話を聞いていた|ジョーンズ《五平餅》が思わず、といった感じで呟いた。

 その言葉を聞いて、哲人はおや?と思った。

『あれ、センセイ、いつの間にチェック受けたんですか?』スリスリスリスリ
「おお、令ちゃんに凄まじい蹴りを貰って気ぃ失って、気づいたら夜でな! この部屋で目ぇ醒めたんじゃけど、全身痒くて *ドスン* *ドスン* しとったんじゃ! そしたら律っちゃんが「五月蠅いからこれ受けて寝てて!」って言ってチェックアプリ投げて来てな。痒いの嫌じゃったから受けたんじゃあ! 丁度良かったわい! ガハハ! まぁ痒いのが治った後、またミノムシに戻っちまったけどな!」ガタンゴトン
『理由が軽すぎる、木星の密度位スカスカじゃないですか・・・・私、すごく悩んだんですけど。まぁセンセイらしいですね。そしてやっぱりセンセイもアプリの中で誰かに会ってたんですね。・・・・あれも仕様の内なのかな?』スリスリスリスリスリ
「おお、なんと・・・・普通は覚えておらぬというのに!御両神も余程に、この出会いにお喜びであったようです。あぁ、素晴らしい・・・・」スリスリスリスリスリスリ♡
『あの~、それでですね、ホゥシエルさん? まことに言い辛いんですが・・・・我々に会いに来た用事というのは、私の手をスリスリする事だけなんですか?』スリスリスリリン♪
「・・・はっ!(ジュルリ わたくしとした事が、なんとはしたない・・・・申し訳ありません、あまりの素晴らしさに我を忘れておりますれば・・・・。わたしくが参ったのは、あなた様らに仕えるべく生まれた、一途なる戦姫をここへ導くことです。・・・・さぁ、二人とも、ここにおいでませい」

 そういって、我に返ったホゥシエルが気まずそうに呼ぶと、部屋の外に控えていた、中学生ぐらいの年頃の美少女が二人、中へ入って来た。
(この不思議な淑女の印象が破壊力ばつ牛ンだったので、約呼が言っていた、彼女が連れだっていたという二人の存在を、一同はすっかり失念していた。可哀想に、先ほどのやり取りの間、待ちぼうけを喰らっていたに違いない)

 一人はショートヘア―をしていて、切れ長の瞳をした、大人びた感じの娘であった。

 もう一人は、やや癖のあるセミロングで、大きい目で、良く動きそうな口元の、どちらかと言えば可愛らしい感じの娘である。

 両者に共通する事は、ホゥシエルと同じような巫女の衣装を着ていることと、その髪と瞳の色がグレーであるということ、首元に透明な宝石が付いたチョーカーを身に着けている、という点である。
 このチョーカーも、非常に美しい造形をしており、正面の縦に細長い枠の中に楕円状の宝石がはめ込まれていた。

 この様に、非常に美しい見た目ではあるが、それとは裏腹に二人は常に無表情で、一切の感情が読み取れない、まるで人形の様な印象を受けた。

 ホゥシエルが二人に優しく語りかける。

「さぁ、愛しい娘らよ。己が仕える益荒男と契りを交わすのです。誰に仕えるかは、わかりますね?」

 その問いかけに、二人はコクリと頷くと、ショートヘアーの方の娘は|ジョーンズ《五平餅》に、セミロングの娘は哲人の元へと、つつっと駆け寄って抱き着くと、先ほどの無表情とは一転、ホゥシエルがしたような潤んだ目で、じっと見つめて来た。

 その年若い娘とは思えぬ妖艶さに哲人と|ジョーンズ《五平餅》が戸惑っていると、ホゥシエルがくすっと笑った後、助け船を出してくれた。

「フフ、ようやっと出会えて娘らも喜んでいます・・・・さぁ、その首元にある宝珠に御手を触れてくださいませ。さすればその娘らは、永久にあなた様らのもの。さぁどうぞ、御手を」
「お、おお・・・・っと、そりゃいいんじゃがの、律っちゃん、縄解いてくれぃ! このままじゃったら触れんわい!」ギッコンバッタン

 突然の事態に放心していた律とハムナプであったが、|ジョーンズ《五平餅》の訴えに我に返ると、不承不承に縄を解きはじめた。

「もうっ! しょうがないですね! その娘が可哀想だから、今だけですよ! 用が済んだらまた五平餅ですからね!」
「何やら更なるやらかしの雰囲気がするが、果たして大丈夫なんだろうか?」
「わかっとるって! 流石律っちゃん! 流石ハムナプ! ハム律! そこに痺れるッ! 憧れるぅッ!」

 調子の良い事を言いつつも解き放たれた|変態《ハゲ》。
 だが目の前の|難所《なんどころ》を前にして、普段のテンションとはいかず、神妙な面持ちとなる。

 哲人もまた同じく、ただならぬ事態に緊張し、動けずにいた。

 だが何時までもそうしてはいられないので、哲人と|ジョーンズ《ハゲ》はお互いの顔を見合わせた後頷くと、ごくりと唾を飲み込みつつ、ゆっくりとチョーカーに付いている宝石に手を触れた・・・・。

 そうして暫くの間、宝石に触れていたのだが、特に何も起こらなかったのでゆっくり手を離した・・・次の瞬間!

 宝石が眩い光を発したかと思うと、その色が、哲人が触れたものが緑、|ジョーンズ《ハゲ》が触れたものが赤に変化していった。
 と同時に、恍惚とした表情をした二人の娘らの体つきが急激に成長し、髪と瞳の色がどんどん変化していくと、|研究室《独房》は緑と赤の、更なる閃光に包まれ、ホゥシエルを除く、その場に居る全ての者が目を開けていられなくなった。

 やがて閃光が収まり、各人が恐る恐る目を開いてみると・・・

 そこには、パッツンパッツンになった巫女の衣装を身に着けた二人の美女が佇んでいた。
 
 ショートカットの娘は、赤い瞳の、メガネが似合いそうな知的美人となった。
 その髪は黒髪で、中央の前髪に銀髪と金髪のメッシュが入り、クロスしていた。

 セミロングの娘は、エメラルドグリーンの瞳で、いたずらっぽい表情が似合いそうな可愛らしい女性に成長した。
 その髪は金髪で、腰まで伸びたもふもふとした髪が五又に分かれており、ホゥシエルと同じくグラデーションの様に、それぞれが黒、白、銀、赤、青と変化していた。

 背丈はショートカットの娘の方がやや高く160㎝前後、セミロング、いや、ロングの方の娘は150㎝前後とやや小柄であった。
 が、出る所はほぼ同じ大きさであったので、相対的にロングの娘の方が大きいという事になる。

 更には、首元のチョーカーも、二人で同じデザインだったものが異なっていた。

 ショートカットの娘は、真円のルビーが炎のレリーフに象られた枠にはめ込まれるような形に。
 ロングの娘の方は、五角形のエメラルドが流星の様に尾を引く細工に彩られ、まるで星に見える形に。
 それぞれ、変化していた。如何なる素材で出来ていたのだろうか?

 ホゥシエルは満足そうに頷き、二人の腕にすっ・・・・と触れると、パッツンパッツンだった衣装が、ホゥシエルのそれと同じようなサイズへとシュッと変化した。
 どうやらこういった場合を想定した、形状記憶素子で出来た服であったようだ。
 チョーカーも同じような物なのであろう。

 そして、情報量が多すぎて再びフリーズしている哲人と|ジョーンズ《ハゲ》に優しく語りかけた。

「さあ、|宇宙《そら》を駆ける益荒男よ。最後に、一途なる戦姫に名を与え給え。それをもって、契りは成就いたします」

 要するに、データリンクした後はマスター登録が必要であるという事である。

 大体理解した哲人であったが、いざ名付けろと言われて戸惑い、あれやこれや考えていると、先に|ジョーンズ《ハゲ》が思いついたようだ。

「ふむ、では今日からキミの名前は「イルマ」だ! どうだ、いい名前じゃろう!?」
「・・・・!!」ニコッ♪
「そうか、気に入ってくれたか! ヨシ! なんか知らんが、新しい助手、ゲットだぜ! 喜ばしいのう! ガハハ! そうれ!」ガシックルクル
「・・・・!? ・・・・♪」

 感極まって、イルマの手を取って踊り出す|ジョーンズ《ハゲ》。
 イルマもまた、無表情だった時など無かった様に、嬉しそうに|ジョーンズ《ハゲ》とくるくる踊っていた。

 そんな二人を横目で見つつ、哲人が尚も唸っていると、ロングの娘が、瞳を悲し気に揺らしながら哲人の顔を覗き込んでいた。
 
 どうやら一刻の猶予も無さそうだ。
 哲人はフッ、と笑うと、ロングの娘の頭にぽんと手を置き、彼女に優しく告げた。

『・・・・じゃあ君の名前はミラリィだ! あの娘が「今」なら、君は「未来」だ! 私と共に、未来へ向かって、むきになって突き進もうじゃないか!」ナデナデ
「・・・・・・・・!!!!!」コクッ♪

 ロングの娘、改め、ミラリィは、花が咲く様に破顔すると、哲人の首っ玉にかじりつき、うにゅうにゅ頬擦りを始めた。

 その様子を嬉しそうに眺めていたホゥシエルは満足げに頷くと、す、とイルマとミラリィの前に立ち、名残惜しそうに別れを告げた。

「契りは成就しました。これで貴女達は立派な戦姫です。後は己に流れる戦姫らの血の導きに従って生きるのです。・・・・幸せになるのですよ。汝らに御両神の加護があらんことを・・・・」
「「・・・・!!」」コクリ

 三者は暫くの間「キリッ」としていたが、やがて笑顔になると、涙を流しつつも抱き合い、別れを惜しんだ・・・・。

 ・・・・こうして、哲人は、生涯にわたって苦楽を共にする、頼れる|相棒《お調子者》、ミラリィとの邂逅を果たしたのである。



 そうこうしている内に迎えの車が来た。一同は見送りに表へと出た。

 哲人は今を逃すとずっと気になりそうだったので、意を決して、最後に気になっていたことをこの不思議な淑女に尋ねた。

『ホゥシエルさん、貴女はブリュンヒルデと一体どのような関係なのですか?』

 全くオブラートに包む気が無い、直接喉へ粉薬を怪物球威怪童ストレートな剛速球にて投下する勢いの質問に、ホゥシエルはいたずらっぽい笑みを浮かべながら

「フフッ・・・・おなごには秘密が一つや4294967295個あるものですよ?・・・・等と女童の様な冗談を言うつもりはございません。それは単にわたくしが、今の様に、新たなる戦乙女らを主たる|宇宙《そら》の益荒男の元へ導く役割であるからですわ。いくさの女神が遣わした、些末な案内役にすぎませぬ。」

と、わかった様で何も答えてない、意味深な言葉を残すのみであった。

 そうやって煙に巻いてはぐらかした詫びの様な感じで、ホゥシエルは去り際に、哲人らへ二人の「一途なる戦乙女」についてのイントロダクションを授けた。

「|宇宙《そら》の益荒男よ、その娘らは、あなた様がたへ迫る一切の災いから、身命を賭して立ち向かう戦乙女です。必ずや、あなた様がたのお役に立ちましょう。今わたくしが言えるのはそれだけですが、何かお聞きになりたい事がございましたら、何時でも零番地コロニーの宇宙戦姫神社へどうぞ。ではこれにて失礼いたします。あなた様がたに、御両神のご加護があらんことを・・・・フフッ・・・・♡」チラリ

 こう言って車に乗り込む、その振り向き際に一瞬だけ、妖艶な熱を込めた流し目を哲人に送ると、そのまま何事もなかったかのように立ち去った。

 この時ミラリィはやや敵意を込めつつも不安そうな表情になって、哲人に抱き着く力をキュッと強めた。
 イルマはその車の姿が見えなくなるまで手を振って見送っていたが、ミラリィはそのまま不貞腐れた様な、悲しいような、複雑な表情でホゥシエルを見送っていた。



 静かなる嵐が過ぎ去った後も、一同は突飛もない事態に呆然と佇んでいた。

無理もない。いきなりスゴイ美女が同じくスゴイ美少女を連れてきて、

「この娘らはあなたのものです」

とか言ってその娘らを置いていったのだから。

 あまつさえ、その娘らは摩訶不思議な光を発したかと思うと、訪問してきた美女と遜色ない美しさの女性に急成長したとなると、まともな思考を保てという方が無理というものである。

 哲人もまた、あまりの急展開に思考がゲシュタルト崩壊を起こしていたが、ふと、服の裾をくいくい引っ張る感覚を共に、行方不明になっていた意識が里帰りした。
 脇をみやると、上目遣いのミラリィがこちらを心配そうに見上げていた。

 と同時に、あの不思議な淑女が言っていた

「必ずや、あなた様のお役に立ちます」

という言葉を思い出したので、その事をミラリィ本人に確認してみることにした。

『ミラリィ、ホゥシエルさんは君らの事を「戦乙女」「身命を賭して守る」等とおっしゃっていたが、君は何が出来るんだ? 過酷な戦いを強いられるスペースライダーにうっかりなってしまった私にとって、君自身は一体どういう感じで役に立ってくれるというのかな?』

 旅団を組んだ以上、ただの話し相手なら間に合っている。
 それどころか、何の力も持たない、か弱いおなごを連れてウロチョロ出来る程に宇宙さんは甘くはない。

 今の哲人に必要なのは、ただ美しさを愛でるだけの寵姫ではなく、頼れる仲間となる宇宙戦士である。

 若干意地悪な言い方ではあるが、この疑問は当然の事であろう。

 形としては、遠まわしに

「うぬなど要らぬわ!」

的な事を言われたミラリィであった。

 だがミラリィは、ショックを受けて悲しみに暮れるどころか、寧ろ

「フッ、ならば逆に供を懇願させてみせようぞ!」

と言わんばかりにニヤッっと笑うと、そのまま目の前にある中庭の広い所まで哲人の手を引っ張って移動した。

 そうやって中庭の中央にて、哲人と相対する恰好になったミラリィは、おもむろにスッ、と半身になって片足を上げた構えを取った。
 その表情は「(`・ω・´)キリッ」という感じで全く迫力を感じないものの、意外にも一切の隙が感じ取れなかった。

 その所作を見て、ある程度ミラリィの力を推し量る事が出来た哲人は、ほう、と感心し、早速打ち込んでみる事にした。
 腰を落とし、鋭く放たれた正拳突きがミラリィの|水月《みぞおち》を襲う!

 だが、その突きは流れる様な掌の動きで見事にいなされた。
 ならばと、次いで放たれた上段蹴りは舞う様な動きでもってひらりと躱された。

 むきになって更に攻め手を早めるも、同様に避けられたばかりか、逆に鋭い貫き手による突きや、流麗な脚技等で反撃すらしてくるようになった。

 中々やるな!と、笑みを浮かべながらも驚嘆する哲人。

 ホゥシエルの言った通り、確かにこの娘の力は本物であるようだ。では最後に、これはどうかな!?と、結構本気目で杖の突きを放った。
 宇宙恐竜にも放った基本にして至高の技、水月突である。

 だがミラリィは、その強烈な突きすらもふわりと飛び上がって躱すと、くるん、と身を翻して、見るからに安定の悪いパンプスの様な形の履物であるにも関わらず、器用にも突き出された杖の上に、全く重さを感じさせる事なく着地した。

 これには驚いた哲人がその姿を見上げた時、これまで袴だと思っていたものが実はそれっぽいプリーツタイプのミニスカートであると気づいた。

 更にその下から結構な角度で食い込んだ褌がちらっと見えたのは不可抗力だ。

 「なるほど、これも彼女らの武器なのだな」と妙に納得した哲人は杖を納めると、同時にふわりと舞い上がったミラリィがそのままペタッと抱き着いてきて、再びうにゅうにゅと頬擦りを始めた。

 張りつめていた緊張感は雲散霧消し、中庭は再び和やかな空気に包まれた。

 そんな達人二人の見事な演舞を見て正気を取り戻したハムナプは興奮を抑えきれずに口を開いた。

「星永君、素人目で見ても分かったぞ。あの淑女が言っていた事はこういう事だったんだな。確かにこれは頼もしい味方だな!」
『正直私も驚いてます。ここまで出来るとは思いませんでした。これは頼りになりますね。今後ともよろしくなミラリィ!』ナデナデ
「(`・ω・´)キリッ」ドヤァ・・・

 その様子を見ていた|ジョーンズ《ハゲ》も、何だか調子に乗って来たのか、妙なハイテンションで傍らに控えるイルマに命を放った。

「おっほぅ! コリャスゲェぞ! ヒュー、コイツはやるかもしれんぞい・・・・。じゃあワシのイルマも勿論強いんじゃろ!? そうに違いないぞ! ヨシ! イルマ、ワシは君に決めた! 行けイルマ!」

 中庭に飛び出してきた野生の哲人へ、自身の|戦姫《イルマ》をけしかけてバトルを挑む|ジョーンズ《ハゲ》!

 イルマはその命にビクッとした後、涙目でふるふると首を振っていたが、往年の天才二刀流メジャーリーガーを目の前にしたアメリカンキッズの様な、きらきらと穢れ無き期待を込めて輝く|ジョーンズ《ハゲ》の眼差しを見て、諦めた様にびくびくと哲人と相対した。

 その様は、十人が見たら十一人が

「えぇ・・・この娘、そんな構えで大丈夫なのかしら?」

と思う様なへっぴり腰であった。

 当然、その感覚は正しく、><な感じになったイルマは猫パンチみたいなのをヘニョッと放ち、哲人を胸をペチペチ叩き始めた。
 一所懸命やっているのは分かるのだが、目を閉じてしまって危ないし、ものすごくいたたまれない気持ちになる有様は全然大丈夫じゃなく、問題であった。

 さてどうしようかと、哲人が首に手を当てて考えこんでいると、いたずらっぽい笑みを浮かべたミラリィが、><な顔になっているイルマの額をツン!と突っついた。

 突然の感覚に吃驚したイルマは尻餅をつき、そのまま泣き出してしまった。

 これには流石に悪いと思ったのか、ミラリィは泣きじゃくるイルマを慰めるように抱きしめてナデナデした。
 ミラリィの胸に顔を埋め、尚も泣きじゃくるイルマ。

 同様に心配し、慌てて駆け寄った律、ハムナプと、哲人らがイルマを介抱してざわざわしていると、ふと律のメガネがキラリ!(きらりではない)と光ったと同時に、

「そこっ!」

という掛け声と共に投げ縄が放たれた!

 その縄はこの混乱に乗じて逃走を企てた|ジョーンズ《ハゲ》を見事に捕らえ、ミノムシに変態を変態させた。

「ほっへぇ! なぜじゃあ! 完璧に気配を絶ったはずなのに! 見逃してくだされぇ!」
「この私が|教授《ハゲ》を逃がすと思っていたんですか!? 大人しく戻れば縛るのは許してあげようかと思ってましたけど、やっぱり今回もダメみたいですね! まだ|執筆《懲役》は残ってますよ! |脱稿《釈放》するまで五平餅ですからね!」ギュウウ
「かぐあぁ~~~! 五平餅はもう嫌じゃあ! 助けてくだされぇ!」ドッタンバッタン

 見苦しくピチピチ蠢く|ジョーンズ《ミノムシ》の姿を見て、泣いていたイルマは般若の面を被って|ジョーンズ《ミノムシ》を踏みつけている律の元へ駆け寄り、泣きながら首を振って、|ジョーンズ《ミノムシ》の助けを請うた。

 流石の律も「ぐぅっ!?」と動揺したが、心を般若に戻し、イルマを諭した。

「駄目よイルマちゃん、ここで|教授《ハゲ》を逃すと、私達だけじゃなくて、大学の人達や学生達、みんなが困るの。|教授《このハゲ》がちゃんとやることやってくれたら、こんな事する必要ないのよ? 貴女が心配する事じゃないわ? ねっ、泣かないで」ナデナデ
「・・・・・・!!・・・・・・!!うぅ~・・・・」グスン

 何か知らんが、口説き落とすなら今が好機!
 とろくでもない閃きを得た|ジョーンズ《ミノムシ》が言い訳を言おうとしたその時。

 ポンッ☆というポップなSEと共に、もふもふとした金髪をツインテールにした幼女が律の眼前に現れた。

 |ジョーンズ《ミノムシ》のNAVI=OS、ムリンである。

 その姿はどっかの大聖堂か何かの壁画に描かれているような天使そのもの。
 小さい羽を持ち、光る輪っかを頭に載せた、可憐な少女であった。

「やれやれ、相変わらずしょうがねーハゲでしゅね! 皆を困らせるのも大概にしなしゃい! このムリンしゃんが、ひと肌脱いでやるでしゅよ!」
「おほう! なんじゃあムリンちゃん、パブリックモードで出て来よってからに! いっつもメンドイっつって手伝ってくれんのに!?」

 普通は他人には目視出来ないナヴィオセラフィムであるが、パブリックモードならこの様に他者と意思疎通をする事が出来る。
 但し、ナヴィオセラフィムの外見は宿主(?)である人間の趣味嗜好によって決まる。この様に衆目に曝け出す事は自分の性癖を暴露するに等しく、普通はしない。

 またもや突飛な出来事に呆気にとられる面々を他所に、主従(果たして、どちらが主でどちらが従なのか・・・)のやり取りは続く。

「勘違いするんでねーでしゅよ! ハゲなんかどうなっても構いやしぇんでしゅ! ムリンは新しくできた「いもーと分」のイルマしゃんが可哀想なだけでしゅ!」
「アイェエエエ! ナンデ!? ムリンちゃんはワシのNAVI=OSじゃろ? 何でそんなにワシに厳しいの? ツンデレ? 恥ずかしがらなくてもいいんじゃよ?」ドッタンバッタン
「うっせー、ハゲ! キモいでしゅ! 氏ね! おめーがそんなんだから、ムリンが苦労しゅるんでしゅ! 弁えなしゃい! このハゲ! 串カツ! 五平餅!」ピコン!ピコン!
「なっ!? ワシハゲてな・・・・! ぐおぉ~~~~~~!! びぶぅ~~~~~!!」ドッタンバッタン

 見た目は幼女がフザけてピコピコハンマーでピコピコやってる様にしか見えないが、ムリンは|ジョーンズ《ミノムシ》の痛覚を直接操作して、傷つけずに、|10tトラック《異世界転送機》に轢かれたのと同等の衝撃を与えている。

 尋常でない|ジョーンズ《ミノムシ》の苦しみように止めるべきではあるが、哲人は、その前にどうしても気になった事を|ジョーンズ《ミノムシ》に尋ねた。

『あ、あの~、センセイ? その子はセンセイのNAVI=OSなんですか? ・・・・えっとそのぅ~・・・・随分と、お若い淑女ですね・・・・?』ドンビキ
「(´゚д゚`)キモーイ」ドンビキ
「お、親父ぃ・・・・遂に精神的にも俺の手の届かない所まで旅立ってしまったのか・・・・うーん・・・・」ヨロヨロ
「・・・・!? そんな趣味まであったんですか!? もう貴方をこの世界へ解き放つ訳にはいかないわ! 世のためにも、一生五平餅決定よ! この!」ギュウウ!
「・・・・!? 違う! 断じて違うぞい! ワシャロリコンじゃない! そんな属性持っとらん! 普通にオネーちゃんが好きなだけじゃ! それ以上に探検意外興味なんぞ無いわい! 信じてくだされぇ!」ドッタンバッタン
「ピシャシャシャシャ! ざまーねーでしゅね! インガオホーでしゅよ! ムリンがこんなんなのは実際ハゲのせいでしゅ! 変態の十字架を背負って生きてくでしゅよ! ピシャシャシャ・・・・氏ねぃ!」ピコンピコン

 この騒ぎを巻き起こしたあげく、燃料を投下して大炎上させるムリン。
 一体|ジョーンズ《ハゲ》は今まで彼女に何をしてきたと言うのであろうか・・・・?

 ともあれ、この言動から、確かに彼女はセンセイのNAVI=OSであるなと変に納得出来た哲人は、混乱した場をおさめるべく、ムリンに姿を現した理由を尋ねた。

『ええと、ムリンさん? 貴女はさっき「ひと肌脱ぐ」とおっしゃいましたが、それはセンセイに黒色矮星並みの重さの十字架を突き立てる事だったのですか?』
「ピシャ!? おっと、このムリンとした事が、ハゲに仕返し出来る喜びの余り我を忘れておったでしゅよ! 勿論、ハゲをロリコン罪で磔ならぬロリつけの刑に処するだけじゃないでしゅ。このハゲのせいでいたいけな女学生達がぬか喜びになるかならんかの状況になっちまってるのはムリンとしても業腹でしゅので! このムリンしゃんが論文を代わりに書いてやるのでしゅよ! さぁハゲ、這い蹲って懇願するでしゅよ! 控えおろう!」
「ぬほぉ!? ムリンちゃんそんな事出来たんか? いっつも「めんどくせーからてめーでやるでしゅよ!」とかいって手伝ってくれんじゃん!? ナンデ?」ドッタンバッタン
「当たり前でしゅよ! 本来ならハゲなんて要らねーでしゅ! ムリンしゃんが居ればいいんでしゅよ! でもいちおーおめーが居ねーとムリンしゃんも消えちゃうんでしゅ! だからおめーにやらしてやってたんでしゅよ! 今回だけでしゅ!」
「ひでぇ! ムリンちゃんひでぇ! あとワシハゲてない! でもさムリンちゃん、どうやって論文書くちゅうんじゃ? 大方5本位あるぞい? 結構な量じゃぞ?」

 確かに|ジョーンズ《ハゲ》の半神たるムリンなら論文を著する事も出来るであろうが、AIの彼女だけではかなり困難である事は間違いない。

 だがムリンは、そんな些細な懸念など、ふんと鼻を鳴らして否定する。

「当然ムリンしゃんだけじゃムリンでしゅよ! でも今はイルマしゃんが居るでしゅ! ムリンしゃんとイルマしゃんが力を合わせれば、論文なんて練習相手にもならんでしゅよ! さぁ、イルマしゃん! ムリンに翼をくだしゃい!」
「・・・・・・!!」コクッ

 ムリンの願いを聞いたイルマは力強く頷くと、その場に蓮華座をとり、静かに瞑目した。

 その際に、彼女の袴スカートからちらっと、ミラリィと同じくかなりの角度で食い込んだ褌が見えてしまっていた。
 そんな状況などお構いなしに、天高くへと舞い上がったムリンは、イルマ目掛けて勢いよくダイブした。

「行きましゅよぉー! 聖天降臨・電神合体! うっひょー--う!」ギュウン!

 凄まじいスピードに加速したムリンは、そのままの勢いでイルマの胸からスッと、彼女の身体の中へと入っていった。

 と同時にイルマが「カッ!」と目を見開くと、その身から神々しいオーラが立ち昇り、それが人の姿を形作っていった。

 やがてそれはイルマの頭上で光を放つ、3対6枚の羽を持ち、七つ七色の輪を戴いて、右手に錫杖、左手に経典を携えた大天使を顕現させた。

「電異の大天使・ムリフェル。健気なる乙女の祈りに応え、その身体を借り、今此処に降臨す」

 |ジョーンズ《ハゲ》以外の一同は、ピンボールが如く二転三転する状況に思考回路はショート寸前であった。

『こ・・・・これは一体・・・・? これがホゥシエルさんが言っていた、イルマの力なのか・・・・?』
「うほほぅ! 違うぞい! こりゃムリンちゃんの元の姿じゃあ! ワシが初めて名付けた時はこの格好だったんじゃよ!? 何時の間にかどんどんちっこくなって、今みたいになっちまったんじゃあ! これでワシがロリコンじゃないって分かったじゃろ? 信じて! ねっ、ねっ、ねっ!?」
「いいえ、私が戻れたのは確かにこのイルマの力によるもの。一時のものに過ぎません。そして、私の姿があの様なちんちくりんになったのはハゲ、お前のせいですよ。遺跡、遺物、調査、そればっかり夢中になって童子帰りするものだから、私もそれに合わせて小さくなり、通力も失われてしまったのです。省みなさいこのロリコンが。そして氏ね」

 見た目は神々しい天使だが、全く表情を変えず、更に口も動かさずに発する、その姿と口の悪さはまさに悪魔そのものであった。

「さて、元の姿に戻れた事で、ハゲに天罰を与えたい所ですが、残念ながら時は残り少ないようです。さぁハゲ、論文の資料を出しなさい。あくしなさい、ハゲ。氏ね」
「お、おう! えーっと・・・・あった! これじゃ、このフォルダに全部入っとるぞ! っていうかワシハゲてねーし!」

 |ジョーンズ《ハゲ》がメモリを漁って資料の入ったフォルダーを取り出すと、それがちょっと濁った光を放つ珠となり、スーッとムリフェルの眼前まで移動した。

 それを見たムリフェルは、まるで汚物を見るが如く、それまでの無表情だった顔をあからさまに顰めた。

「なんですかコレは・・・・なんでもかんでもお前の頭髪みたいにグチャグチャにブチ込まれただけではありませんか・・・・。ちゃんと整理しないから論文書くのに時間がかかるのです。だからお前はハゲるのです、このハゲ。氏ね」
「分かりゃいいんじゃ、分かりゃあ! どうせ放り込んだのワシなんじゃあ! 使うのもワシじゃし良いじゃろ! っていうかワシハゲてねーもん! フッサフサじゃあ! 見るがいいわい!」ブォンブォン
「物理的にではなく、内面がハゲだと言っているのです。もうズルズルにハゲ散らかしているではないですか。このズルムケ。だからお前はハゲなのですハゲ。氏ね。そして気が変わりました。やはりお前には天罰を下します。悔い改めなさい、このハゲ! ハゲ滅ぶべし、慈悲はなし! 氏ねハゲ!」

 その美しい顔を歪めてしまう程の怒りをあらわにしたムリフェルは、手に持っていた錫杖をす、掲げるとその先端に取り付けられた宝玉から眩いばかりの光が発せられ、|ジョーンズ《ハゲ》の身体を包み込んだ。

 |ジョーンズ《ハゲ》は暫くの間、何事も無く( ^ω^)?キョトンとしていたが、やがて全身に襲い掛かる凄まじき痒みに、 *ドスン* *ドスン* のたうち回った。

 ムリフェルが、データとして記録していたノーブルエイドリキッドの副作用からなる痒みを、|ジョーンズ《ハゲ》の感覚を操作して再現したのだ。

「ほっぎゃあああ! か、痒いぃいいい! 折角収まったのにぃ!」ドッタンバッタン
「口答えした罰です、暫くそうしてなさい。そして氏ね。しかし、これは中々便利な身体データですね。今後このハゲを大人しくさせたい時にでも利用できそうです。さて、ようやっとハゲが大人しくなったところで論文を著してしまいましょう」スッ・・・

 先程と同じく、ムリフェルが錫杖を掲げると、今度は資料フォルダだった、濁った光の玉が輝きだした。
 その光はくすんだものから徐々に浄化され、美しい輝きを放つと供に、光が更に5つに分かれると、7色に輝く宝珠へと変化していった。

 その虹色の宝珠は、スーッと律の方へ漂い、眼前でぴたりと静止した。

 律が恐る恐るその5つの宝珠に手を触れると、淡い光のエフェクトと共にフォルダのイメージへと変化していった。

「さぁ律よ、確認するのです。直すところがあるなら、今の内ですよ」
「ほぇっ!? は、はい、では・・・・(。´・ω・)ん? ( ,,`・ω・´)ンンン? はあ! すごい! 完璧な出来映えですね! うん、確かにこれなら|教授《ハゲ》が要らないというのも納得ですね!」
「ほう、どれどれ、俺にも見せてくれ・・・・おお、確かにこれはすごいな! 門外漢の俺にも分かりやすいぞ! はっきし言うと|親父《ハゲ》の書いた奴より断然良いな!」
「フフフ、そうでしょう、そうでしょう。このムリフェルの手にかかれば、この様な事はシャーペンの芯をへし折るより容易い事なのです。しかし・・・・あぁ、やはりまだ「馴染んで」はおらぬようです。名残惜しいですが、イルマの身が第一です。この姿で居られるのはここまでの様ですね・・・・皆の者、また会いましょう」

 本当に残念そうにそう言ったムリフェルの姿は無数の光の粒子となって消え去ると同時に、蓮華座で座るイルマの胸から「ポンッ☆」とムリンが飛び出すと、イルマもまた、ふらっと倒れた。

 その表情は苦痛に歪み、色っぽい足つきで身を横たえたまま、肩で息をしていた。
心配した一同が駆け寄るも、イルマは涙目で首を振って静止する。一体彼女の身にどんな負担があったのだろうか・・・?

 そんな一同の不安をよそに、ニチャァ・・・と悪い笑みを浮かべたミラリィが、イルマの静止に構わずに近寄ると、その指先をイルマの足にツーンと押し付けた。

「はうん!」と声を上げて身悶えするイルマ。どうやら、単に足がシビれていただけの様である。
(流石に生まれてすぐに蓮華座はキツかったようだ。)

 しかし、その喘ぎ声が|ミラリィ《お調子者》の嗜虐心を煽った。尚もしつこくツンツンし続ける。
 そしてその度に「うぅん!?」とか「ひぅう!」とか喘ぎ悶えるイルマは、有体に言って非常にエロかった。

 何事かと構えた「イルマの身を案ずる心配」は、「非常にまずいイルマの痴態を衆目に晒す危険を懸念する心配」に代わってしまった。

 哲人はミラリィを引き剥がし、頭をペチッと引っぱたいてやめさせた。

『コラ、やめんか馬鹿もんが。・・・・しかしさっきから薄々感じてはいたが、うぬは中々のお調子者のようだな! これは先が思いやられそうだ・・・・』ヤレヤレ
「・・・・・・!! ・・・・フフフッ♪」ニチャァ・・・

 妖しく嗤うミラリィ。コイツ本当に分かってんのかと不安になる哲人であった。

「イルマしゃんはまだまだ身体がかてーでしゅよ。無理さしちゃダメでしゅ。あの最も神に近い座り方してる時なら、ずーっと元の姿でいられるんです。ぼちぼち体を柔らかくするでしゅよ。」
『割とそんな簡単な事でいいんだ・・・・。あの凄まじい情報処理能力がイルマの力の様だが、その力を発揮するには、条件が必要なのか。・・・・所で、うぬも同じ事が出来るのか?』
「( ^ω^)・・・?」キョトン

 「何のこと?」と首を傾げるミラリィ。こやつには出来ないようである。

「アレが出来るのはイルマしゃんだけでしゅよ。この娘しゃん達の力は、その髪に現れるんでしゅ。あんたしゃんトコの娘は、「五色」だから、特に戦いが得意で、それ以外の事もそつなく出来るスゴい娘なんでしゅ。流石に、情報処理まではムリンちゃんでしゅけどね。「五色」は百人に一人位の、特別な存在なんでしゅよ!」
「(`・ω・´)ドヤァ・・・」ドヤァ・・・
『ほう、そうなのですか! この変な髪の毛で分かるのか・・・・そういえばホゥシエルさんも三色に分かれてたな。・・・・しかしなぜ貴女がそんな事ご存じなんですか?』

 ミラリィの髪の毛をひと房持ち上げてモフりながら疑問を口にする哲人。

「イルマしゃんと「繋がって」みて分かったんでしゅ。でもムリフェルの力を持ってしても、すげープロテクトがかかってて大体の事しか分からんかったでしゅけども。まとめをあんたしゃんトコのヒナシのお姉ちゃんにも送っとくから聞くといいでしゅ。ムリンしゃんは律っしゃんと一緒にハゲの後始末をせにゃならんので忙しーんでしゅ。ほりゃ!」シュッ

 ムリンが光るスター・スリケンを哲人に向かって投擲すると、いつの間にか姿を現していた(といっても通常モードなので他人には見えない)ヒナシが受け止めた。

『「ムリン、確かに受け取ったわ、有難う。・・・・成程、大体分かったわ。あの娘達の髪の色が幾つに分かれてるかで、能力がある程度カテゴライズされるようね」』
『ほう、そうなのか。実際のカラーの違いは関係あるのか?』
『「あくまで数であって、何色かは関係ないみたい。ただの個体差ね」』
『そうか、関係ないか。では、具体的にどういった系統別になるのかな?』
『「イルマの「二色」は情報処理とか、工作といったサポート能力に特化しているようね。半面、戦闘能力はほぼ皆無ね」』
『ンフッ!皆無か。確かにあの可愛らしいファイトを見た後なら納得だな。では、他の色分けはどうなんだ?』
『「あの不思議な淑女も持っていた「三色」は最も多いタイプで、突出した能力がない代わりに何でも出来る平均的な汎用型で、「四色」が極めて高い戦闘能力を有する戦闘特化タイプらしいわ。ただし、強さの代わりにそれ以外が犠牲になって、女子としてはちょっと残念な娘が多いとか・・・・」』
『ンフフッ! それは何となく分かるな。で、こやつの「五色」は一体? ムリンさんも「百人に一人の特別な存在」とおっしゃっていたが・・・・?』
『「五色」の娘は所謂「ハイエンドモデル」で、「三色」の汎用性と「四色」をも超える戦闘力を兼ね備えた、極めて高性能な戦姫よ。その代わり、適合する相手も同等の実力と素質を持ってないと生まれる事は無いから、そういった意味でも「特別」と言えるでしょう。」』
「(`・ω・´)ドヤァ・・・」ドヤァ・・・
『一応私もそれなりに強いと認められたのか・・・・まだまだ未熟だと思うがな。ホゥシエルさんのあの艶っぽい反応もそのせいだったのだろうか? ・・・・所でミラリィ、さっきからこの会話が聞こえているようだが、うぬはヒナシが見えるのか?』
「・・・・」コクリ
『「それは当然ね。この娘達はNAVI=OSを持っていないわ。だからミラリィのサポートは哲人のものと同様に私が担っているわ。あの不思議な淑女が言った「契り」というのは、私との接続の事でもあるのよ」』
『ほほう! という事は、今こうしている限り、君は私とミラリィの生体ナノマシンをリソースにして、倍以上の処理能力を持つ事になるな。・・・・そうか、イルマの力もその事を応用したものなのか』
『「exactry(その通りでございます)よ。ただし、私が常駐しているのはあくまで哲人、貴方であってミラリィではないわ。故に・・・・そうね、一光年ぐらい離れ離れになると私との通信が切断されてしまう上、そのまま半月位合流できないと、今度は貴方との「アストラル・リンケージ」が消滅してミラリィが行動不能になってしまうから、別行動を取る場合は注意してね」』

 「アストラル・リンケージ」とは、既存の通信手段を使わずにお互いの存在を結線するという、この時代のテクノロジーをもってすら未だに解明できていないオーパーツである。
 朧げながらに、想念波を利用して魂レベルで両者を結びつけているのではないか、という事が判明している程度の、謎技術である。

『なるほど、わかった。大体「同一星系内ぐらい」なら別々に活動しても大丈夫で問題ないという事だな。記憶に止めておくよ。しかし行動不能とは穏やかじゃないな。それは死に至る程か?』
「(`;ω;´)」ブルブル
『「行動不能になって更に半月が経過した場合はそうなるわ・・・・。別行動はなるべく控えた方がいいでしょうね」』
『そうか・・・・。まぁ出来の悪い家族が一人増えたと思う事にするか。あの不思議な淑女にもくれぐれもと言われたし、折角こうして邂逅していきなり死別するのもアレだしな。まぁ、改めてよろしくな』ナデナデ
「(‘ω’)♪」ニッコリ
『「勿論、貴方が死んでしまっても同様にミラリィは命を落としてしまうわ。最早この娘と貴方は一蓮托生、作戦は「いのちだいじに」を心掛けてね」』
『当然さ、そう易々と死んでたまるものかよ。さる仮病の闘士は「命は投げ捨てるもの」とか言ったそうだが、小心者の私にはそんな真似到底出来んしな。無論、君もサポートしてくれるんだろう? なら安心さ』
『「ええ、今まで以上の力が漲っている感覚があるわ。期待してちょうだい」』
『ああ! よろしくどうぞ! ・・・・と言いたい所だが、最後に一つだけ・・・・髪の毛ばかりに気を取られていたが、結局のところ、この娘達は一体何者なんだ?』
『「もう「あっ・・・・(察し」ってなってると思うけど、この娘達は人間じゃないわ。深宇宙探索業者が社会的に認められたと同時に開発された|人口生命体《ホムンクルス》、「深宇宙探索業務助手」・・・通称Succu=Bus。それが彼女達の正体よ。過酷な探索業を少しでも支援しようという、お上の健気な心遣いってとこかしら」』
『深淵の闇が齎す絶望から人々を救い出して希望を与えるこの娘らに、聖人から精気を吸い取って堕落させる夢魔の名前を当てるとは、随分とシニカルだな・・・・』
『「残念ながら、ムリフェルにもここまでしか分からなかったわ。開発にどういった経緯があったかまでは不明よ。でもそうね、作った人そこまで深く考えてなかったんじゃない? って思うわ。多分。知らなけど」』
『ンフフッ! おいおい、何てこと言うんだ。しかしまぁ、当時の人々が何を思っていたか窺い知る事など出来んからな。この疑問も、あの不思議な淑女からの試練なんだろうか? ・・・・いずれ彼女と再会せねばならん気がするな・・・・』

 ヒナシと共にこの不思議な娘たちの正体を考察し終わったと同時に、|ジョーンズ《ハゲ》の沙汰も決定したようである。
 ムリンが、先程まで濁った光を発していたが、今は美しい輝きを放つ宝珠となっている資料フォルダを|ジョーンズ《ハゲ》の頭部に投げつけていた。

「ほりゃ! 資料返すでしゅよ! ついでに整理しといてやったから、有難く思うでしゅよ! これに懲りて教授のお仕事もちゃんとするんでしゅよ!?」
「ぬほほ! やっと痒みも収まった今、ワシがそんな事に従うとでも思っとるのか!? このまま深宇宙へ遁走してやるわい! ・・・・ん? なんじゃ? おお! 資料が見やすくなっとるぞい! ヤッター! ・・・・って、あひぃ! 頭だけめっちゃ痒いぃいいい!!」
「このムリンしゃんが、おめーをそう簡単に解き放つわきゃねーでしゅよ! そのカイカイを何時でも再現出来るようにしてやったでしゅ! おめーが真面目にやる事やらねーと、こうやってかいーくしてやるでしゅよ!?」
「あぎゃあ! 許してください! 仕事以外なら何でもしまかぜ! お願いムリンちゃん! ねっ、ねっ、ねっ!?」ドッタンバッタン
「ほう、いま何でもって言ったでしゅね!? なら万全を期して、この「痒うまスイッチ」を律っしゃんにプレゼントするでしゅ。これでおめーはもうお仕事から逃げられねーでしゅよ!ピシャシャシャシャ!・・・・氏ねぃ!」ハイ
「うっへえ!? ムリンちゃん、おヌシはなんつうエゲツない事を思いつくんじゃあ! ムリンちゃんエゲツない! ムリツない!」
「ピシャシャシャ! 何とでもいいやがれでしゅ! そんでもっておめーは「やめて、それだけは!」って言うでしゅよ!」
「言い当てられずとも当然言うわい! やめてそれだけは〜!」ドッタンバッタン
「頂きましたわ。ちょっと試してみても・・・? それっ!」カチッ

 律が仮想ウィンドウに表示されるボップな感じのボタンを押下すると、|ジョーンズ《ハゲ》の身体中を凄まじき痒みが旨旨と襲う!

「ほっぎゃああああっす!! か、かゆいぃ!! ワ、ワシの身体、一体どうなて・・・・おっヒィ!!」ドスンドスン
「ウフフッ! 面白ーい! これすごく便利ですね!」
「これでこのハゲもちったぁ大人しくお仕事するでしゅよ。さあハゲ、これからは心とヅラを入れ替えて真面目に働くって誓うでしゅか? って言うか誓えでしゅ!」
「ホッホウ! だが断わ(カチッ)おぎょひぇえ!! 誓う! 誓いまくるから、この痒みを止めてくだされえ! あとワシハゲとらんしヅラでもないぃ!」
「こうなりたくなければミッションが始まる日まで真面目に講義してください! やるだけやんないと単位取れない子も居るんですからね!」
「エヒャエヒィー! 授業しまくる! 真面目に教授やる! じゃから痒いの止めてくれ〜!!」ドスンドスン
「じゃあ特別に許してあげます。あと、ムリンちゃんのお陰で論文も書けた事だし、今日は特別にメンバーになりそうな学生を探すのを許可します。丁度今はウチの講義も無いですしね。」
「ヒャッホウ! そうこなくっちゃあ! 流石律っちゃん! 一生着いて行くぞい!」
「調子に乗らない! (カチッ! ほぎゃあああ!)ホントにもう! ハムナプ、スイッチ渡すから見ててね。」ハイ
「うむ、任された。って言うか俺もやってみたかったんだ。・・・・さて親父、これをどうして欲しい? フフフ・・・・」
「ポヒィ〜!! 痒いぃ〜!! ハ、ハムナプ、お前もか!? た、頼む! 痒いのを止めてくれ〜!」ドスンドスン
「ヨシ! こうか! (カチッ)ん〜? 間違えたかな? フフフ・・・・」ニチャァ・・・
「はぎょお!? ち、違うぞい! おにょれ〜、これ以上スイッチを押させるものか〜!! 氏なば諸共ぉ!」ドッタンバッタン
「いいや限界だ、押すねッ! 十六連射! (カチッ×16)」
「ぬおぉ〜!! ハムナプ名人よ、おヌシ絶対遊んどるじゃろお〜!? アギャあす! ヒィイ〜・・・・」ドッタンバッタン

 因果応報な|ジョーンズ《ハゲ》をハムナプに任せて、律は哲人と最後の確認を行う。

「メンバーと物資はこちらで揃えます。哲人さんは武装関連の装備や整備の為の設備の購入をお願いしますね!ウチに送ってもらって構いませんので」アギャアアア
『分かりました。では、メンバーが揃ったらまたこちらに来れば宜しいですね?直接この学舎へ来ても?』ヒィィィ
「はい、そうですね。メンバーと言っても、素人の学生ですからね。もやしも良いところです。顔合わせも兼ねて、自衛の手段と心得の手ほどきをよろしくお願いしますね」ホギェエエエ
『今はコイツが居ますからね、多少は余裕を持ってメンバーの皆を守る事が出来そうです。しかし万が一という事もありますし、しっかりレクチャーしますよ。・・・・さて、センセイもそろそろ限界でしょうし、私はここらで失礼します。早いところ解き放ってやってあげてください』ウボァアアア
「(`・ω・´)ドヤァ・・・」ドヤァ・・・
「・・・・!? ああ、ほんとだ! 哲人さん、ではまた後日・・・・ちょっと! 流石にやりすぎよ! まだ働いて貰わなきゃならないんだから・・・・」ハヒィィィ オースマン ピシャシャ

 痒みにのたうち回る|ジョーンズ《ハゲ》を中心にワチャワチャする面々に苦笑しながら、新たに出会った|相棒《ミラリィ》と共に、哲人は帰路へと着いた。

 こうして慌ただしく準備が進められた。
 そして二週間の後、ミラリィ、イルマといった頼もしい仲間と共に、|ジョーンズ《ハゲ》が(半ば強引に)スカウトした学生達をメンバーに迎えいれ、旅団「熱き冒険者」が発足した。

 そしてその喜びに浸る間もなく、「宇宙聖女を救え!修学旅行隠密護衛作戦」のミッションに、忙しなく臨むのであった・・・・。

 尚、余談ではあるが、ミラリィを連れて「もこやん」に帰宅した哲人を見た令は、無骨な息子が遂に女性と関係を持ったのかと狂喜乱舞した。

 それは今にも赤飯を炊きだす程の勢いでの喜びっぷりであった。

 わざとやったとしか思えない程に遅れたタイミングで送られて来た深宇宙探索庁からの「深宇宙探索業務助手派遣証明書」を提示して何とか事なきを得たが、その後もオカンの興奮は冷めやらず、これを宥めるのに哲人は大変苦労した。

to be continued… なんじゃあ~

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